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第90話
「結果的に、その同級生の方には片思いのままで別れ別れとなっていたそうで、彼自身は全く汚れのない体であったのではないかと言われていたそうです」
俺を置いてけぼりに、女将の話は続く。
「多少、陰間としてのお支度をする過程で、体に触れたり触れさせたりということをしたそうなのですが、彼は初心で一つ一つの動作に戸惑う素振りを見せていたそうです」
「一途に一人を想い続けるくらいだから、そうかもしれないな」
代わりに彼が相槌を打った。
「そうですね。これは大変申し上げにくいことですが、その、お若いのに、男性としてあまり体も反応しなかったそうで、触れられることに過剰に怯える様子も見られたと」
言わんとしていることを察して、ちょっと恥ずかしくなってきた。喋ってしまう女将もすごい。
「なんつうか、その、その店主って人も結構忌憚無くいろいろ書いてるんですね」
今で言うところのゴシップみたいな、出歯亀根性みたいなものを感じる。
「店主としていろいろ把握していたようでございますね。とはいえこうして記録のように書いて、それが後世まで残っているとは思っていなかったでしょうが」
上品に笑う。
「陰間となってから、あっという間に花魁のようなポジションに駆け上がりまして、それからの生活は不自由していなかったようです。当時の陰間たちは男女共お相手するパターンが多く、良家の奥様の愛人のような役割も果たしていたそうなのですが、彼の場合は男性の相手専門だったそうです」
女と見間違うくらいの美貌と教養を備えた彼を、わざわざ囲いたいという奥様方がいなかったんだそうな。
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