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第91話

「もともと雑用係として働いていたときから、田舎の家族へ仕送りをしていたようですが、途中でその仕送りも行わなくなったそうですね」 「陰間になってからの方が羽振りがよかっただろうに、どうして仕送りをやめたんだ?」 彼が顔をしかめる。 「その点に関して細かいことは書かれておりませんでしたが、いろいろな資料に書かれていたことを総合して判断するに、田舎の家族からもう家族に接触してこないように言われたのだと思われます」 「接触しないように? 仕送りで世話になっていたわりにずいぶんな言い草だな」 「家主だった彼の父親が他界したことで家が没落し一家離散状態となったのですが、残された母親が後に再婚することになったと、どこかの記録に書かれておりました。きっと、陰間として働いている身内がいたと知れたら、その再婚に差し障りがあったのだと思います」 「なんてことだ、それじゃあ彼が可哀想じゃないか」 彼はまた、目の前に本人がいるみたいに顔をしかめ肩を落とした。 「母親だけの問題ならまだしも、彼には残してきた弟と妹がいたそうですので、きっと弟と妹の身も案じてのことだったのではないかと思います。自分が身を引くことで、弟と妹の幸せにも結びつくと考えても不思議ではありません」 「oh……それじゃあ、本当に彼ばかりが辛い思いをしているじゃないか」 お国柄なのかわからないが、彼のリアクションはとにかく大きい。ぬいぐるみみたいに俺を抱きしめて、話に聞き入っていた。

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