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第92話
「そんな生活の中で、彼はとある客に出会ったのだそうです」
女将の話ぶりも、徐々に講談師のように慣れてきた。
「貿易商の家系の後継の男性で、海外にも行き来があった人だそうです。陰間茶屋にはあまり来たことがなかったそうなのですが、彼の美貌と人柄、そして英語を嗜んでいたというスキルに惚れ込んで、足繁く通いつめていたそうです」
「英語喋れる男の子に貿易商の男って、ねぇ」
なんか出来すぎたドラマみたいだと思ってしまう。
「時に花束を持ち、時に舶来の石鹸を持ち、彼の元を訪れていたとのことでございますよ。一途に学生時代の同級生を想っていた彼でしたが、熱心に足を運んでくださったその方のことを、少しずつ愛していったそうです」
「へぇー」
ちゃちゃを入れるつもりじゃないけれど、なんだか適当に返事をしてしまった。一方で彼は真剣に聞き入っている。
「しかし、そんな足繁く通えるほど、お手軽に彼を買えたものなのか? 俺にはその価値はわからないが、きっと今の風俗みたいなものよりも高かったんだろう?」
たしかに彼を買うのに一体いくら必要だったのだろう。
「当時の当館はもともと上客しか相手にしていなかったそうで、一番安い陰間を買おうとしても他の店よりは高かったそうでございます。そこでトップだった彼の値段は、よほどだったようで、しめて」
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