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第95話

「身請け予定の貿易商の方に比べれば、同級生の方はもちろんお金などありませんでした。たった1日だけ、借金をして、彼のところへ向かったのだそうです」 「借金って」 学生で借金とかできるのかと思ったけど、当時の世の中だと結構普通のことだったりするんだろうか。 それよりも、どうやって彼の居場所を知ったんだろうか。 「どうして彼の居場所を知ったんだ? 大っぴらに情報が出回っていたものなのか?」 俺より先に彼が尋ねた。 「当時、陰間も花魁同様、大衆の憧れの的のような存在でございました。時折ゴシップ誌のような紙面に登場することがあったのです。えぇと、なんと言いますか、正確には成人誌とゴシップ誌の中間のような存在だったようで、特に……」 女将が突然、言いにくそうに言葉をつまらせた。軽く咳払いをすると、まっすぐに背筋を正す。 「特に、水揚げの情報は必ず紙面を賑わせたそうでございます。そこで彼の存在を知ったようなのです」 「水揚げ?」 また知らない単語に翻弄される。ぽかんとしていると、女将がまた言葉を詰まらせた。 「えぇと、水揚げと申しますのは」 そしてやたら強い咳払いをする。 「水揚げと申しますのは、初めて男性と一夜を共にすることを申します。その時の様子や具合などを、事細かに紙面に載せて、一つの店の宣伝としていたようなのです」

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