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第104話
それが部屋からバッチリ見えてるっているのも今思うと結構怖いし、あと数日、その存在を気にしながら滞在するっていうのがどうしようもなく窮屈な感じがする。
(化けて出てこられたらどうしよう……)
話を聞いてしまった今夜にも金縛りに合いそうな気すらしてくる。
「長くお付き合いいただきありがとうございます、拙いお話で申し訳ありませんでした」
女将は涙を拭い、殊更優しく微笑んだ。
「何を言うんだ、素晴らしい話をありがとう」
彼も感動して、何度も頷きながら握手を求めている。流れで俺も握手してしまった。
「長居をして申し訳ございませんでした、このお話は、旅で聞いた与太話として片隅に覚えておいていただければ幸いです。きっと2人も浮かばれることでしょう」
浮かばれるとか言われると、なんだか本当に怖くなってくる。
女将は何度も軽く頭を下げながら、そのまま話の幕引きをした。荷物を再び風呂敷にまとめ、部屋を後にする。
「それでは失礼いたします」
2人で前室の引き戸の前まで送ると、残ったのは話の余韻の重苦しさだけだった。
「はぁ……」
初日にこの部屋を見た部屋の感動はどこに行ったんだろう。どこを見ても、ここで誰か死んだんじゃないかとか、その木の節が人の顔に見えるとか、そんな風にしか見えなくなってくる。
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