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第105話
部屋に戻る彼の背中を追う。なんだかしょんぼりとしていて、俺の倍くらい広い背中が軽く震えていた。
もしかして、彼も怖い話は苦手だったんだろうか。
「大丈夫だって、人は死んでるけど、多分お化けとかは出ないと思うから。今まで大丈夫だったじゃん、そんな心配しなくてもお祓いくらいしてると思うし」
とか言いながら、もしお祓いしてなかったらどうしよう。歩きながらポンと背中を叩くと、軽く跳ね上がって石橋の上で立ち止まった。
「とりあえず飲んで落ち着こう。な?」
慰めたくて背中をさすると、彼は俯いたまま軽く首を横に振った。
「……違うんだハニー、俺はお化けが怖いちびっ子じゃない」
だいぶトーンの落ちた声。
「まぁちびっ子じゃねぇよな」
それも適当に返すけど、彼は肩を落としたままで、石橋の下の川を見つめていた。
「そういうことじゃあ、ないんだ。俺が思ったのは……」
とても言いにくそうに、ゆっくりと確かめるみたいに言う。
「?」
腕を組んで軽く首をかしげると、彼は絞り出すみたいに、ゆっくりと話し出す。
「もし、俺たちが彼らのようなことになったら、と思ったんだ」
「……」
足元を流れる川のせせらぎが、一瞬にしてどんよりした空気を物悲しいものにした。
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