106 / 148
第106話
「彼らは辛かっただろうな。ずっとお互いに好きだったのに、気づかずに別れて、やっと出会えてやっと一緒になれたのに、また離れ離れになってしまったんだから」
顔を上げた彼に、そのまま抱きしめられる。
「もしお前が俺を置いて逝ってしまったらと思ったら……俺は……俺はっ」
そのまま俺の肩口に顔を埋めて、背中を震わせて泣き始めた。
「おいっ、ちょっと……っ」
びっくりした。びっくりしたけれど、彼が思っていることも理解できる。心がぎゅうっと絞られるみたいに痛んだ。
とにかく、彼を落ち着かせないと。
「……勝手に殺すなバカ」
極力背中を優しく撫でるように努める。彼は泣き止まなくて、大きな図体を小刻みに震わせていた。
「ほら、落ち着けって。なぁ」
本当にしょうがねぇなぁ。ガキ慰めてるみたいだ。
けれど、本気で泣いている彼はなかなか泣き止んではくれない。大の男がこんなに大泣きするなんて、今まで直面したこともなかった。
無理やり体を離す。驚いたような怯えたような顔をしてたけど、そのほっぺたを両手で包んで真っ直ぐに俺の方を向かせた。
「ちゃんと見ろ。ほら、俺いるだろここに」
じっと目を見つめながら、諭すみたいに言う。
ともだちにシェアしよう!