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第107話
間接照明の室内は、なんとなく月明かりを思わせる緩やかな明るさをまとっている。
それほど明るくはないけど、彼の目が潤んでいるのはっきりと見えた。
彼の頬を包んだままの左手の薬指も、わずかな光を受けて微かに光る。
「ハニー……」
「ほら、いい男がベソかいてんじゃねぇよ」
「だって……」
「だってじゃねぇって」
浴衣の袖で涙を拭ってやる。そのまま背伸びして、軽く唇を重ねた。
「新婚旅行に来てんのに、泣くやつがあるかよ」
またすぐ泣き出しそうな顔をしている。
……あぁ、なんかダメだな。
慰めたいっていうか、甘やかしたいっていうか、もっと彼に寄り添いたい気持ちが込み上げてくる。
「ハニー、ずっと俺のそばにいてくれるか?」
涙声の彼の顔を見て、我ながらびっくりするほど頬が緩む。自然と微笑んでしまう。
「絶対そばにいるよ。一生お前のそばにいる」
子供に言い聞かせるみたいに、とにかく出来る限り優しく囁いた。
じっと目を見つめると、彼の呼吸が少しずつ落ち着いてくるのを感じる。
「大丈夫か?」
わかっていながら尋ねる。彼は軽く頷いて、自分の目を擦るみたいに拭った。
「すまない、子供みたいなことを言ってしまった」
耳が赤い。恥ずかしかったのかな。
「別にいいよ」
また軽いキスをすると、彼が少しだけびっくりした顔をした。
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