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第109話
「布団に行こ」
囁くみたいに言う。
「ちゃんと抱きしめたいから」
指を絡めて手を繋ぐと、彼は何も答えずに、部屋にむかって歩き出した俺の後をついてきた。
さっき女将が話をしてくれた囲炉裏の広間を通り過ぎて、まっすぐ奥の寝室に向かう。一緒に寝ている布団状のベッドまで来てようやく立ち止まると、その瞬間に真後ろから抱きしめられた。
この角度から抱きしめられたことって、あんまりない。
「愛してる」
ちょっと掠れた声で、耳の後ろあたりから囁かれると、体の奥から一気に全身が熱くなる。
お腹のあたりに手を組まれると、彼に全身を包まれるみたいで安心した。近すぎてドキドキもしているけど。
「ありがとう。俺も、愛してる」
ちょっと緊張しながら答える。肩に顎を置かれながら下半身も擦り付けられた。
「あんなに悲しい気持ちになったのに、どういうわけか体が反応しちまう」
自分に呆れてるみたいな言い方だった。
「まぁ、いいんじゃん、別に悪いことしてるわけでもないし」
かえって好都合だ。
「俺も嫌な気分じゃないしさ」
反応されない方が傷つきそう。抱きしめたいって言ったけど、どうせそれだけじゃ終わらないのは端から承知の上で誘ったところもあるし。
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