136 / 148

第136話

「とにかく、俺は乱暴者だったんだ。自分の仕事にあぐらをかいていたつもりはなかったが、そういうのも傲慢になってしまった理由の一つだろうと思う」 「別にそんな風に感じたことないけどなぁ」 「そりゃあ、お前と出会ってから変わったからな」 「乱暴乱暴っていうけど、例えばどんなことしたの?」 ついいつもと変わりない世間話になってしまう。 「そうだな、お前には絶対しないようなことばかりしていた」 「例えば?」 「例えば、叩いたり縛ったり、そういうことだ」 「SMみたいなこと?」 「まぁそんなところだな。そういうことにしておいてくれ。お前に嫌われたくないからな」 濁されてピンと来ないままだけど、大富豪には大富豪しか知らない世界があるのだろう。 「ん、ま、そっか、うん」 合間に返事をして、適当に話を濁した。お互いの全てを知らないでいることが、長続きする秘訣なんてよく聞く話だし。 大体、彼の過去には興味なんかない。 「お前が喋りたくないなら、喋らなくていいよ。俺も無理に聞かないし、お前が俺を大事にしてくれてるのは、本当によくわかってるからさ」 それに。俺たちに必要なのは、未来だけなんだから。 話に終止符を打つように、触り続けていたほっぺたを両手で包んで、そっと唇を重ねてみる。

ともだちにシェアしよう!