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第136話
「とにかく、俺は乱暴者だったんだ。自分の仕事にあぐらをかいていたつもりはなかったが、そういうのも傲慢になってしまった理由の一つだろうと思う」
「別にそんな風に感じたことないけどなぁ」
「そりゃあ、お前と出会ってから変わったからな」
「乱暴乱暴っていうけど、例えばどんなことしたの?」
ついいつもと変わりない世間話になってしまう。
「そうだな、お前には絶対しないようなことばかりしていた」
「例えば?」
「例えば、叩いたり縛ったり、そういうことだ」
「SMみたいなこと?」
「まぁそんなところだな。そういうことにしておいてくれ。お前に嫌われたくないからな」
濁されてピンと来ないままだけど、大富豪には大富豪しか知らない世界があるのだろう。
「ん、ま、そっか、うん」
合間に返事をして、適当に話を濁した。お互いの全てを知らないでいることが、長続きする秘訣なんてよく聞く話だし。
大体、彼の過去には興味なんかない。
「お前が喋りたくないなら、喋らなくていいよ。俺も無理に聞かないし、お前が俺を大事にしてくれてるのは、本当によくわかってるからさ」
それに。俺たちに必要なのは、未来だけなんだから。
話に終止符を打つように、触り続けていたほっぺたを両手で包んで、そっと唇を重ねてみる。
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