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第138話

俺は俺と出会う前の彼のことは本当に何も知らないし、知ろうとも思わない。 けれど、俺と出会ったことで、俺の知る穏やかで優しくて陽気な今の彼が生まれたんだとしたら、なんだかすごく嬉しくてくすぐったい。 「俺たち、出会うように仕組まれてたのかもな」 耳に直に囁く。 「なんか、その、陰間の人と、同級生の奴に、引き合わされてたりして、な」 彼と出会う前には絶対言わなかったようなことが、つい口をついて出る。 「ハニー、俺も同じことを思っていた。なんだかこの旅館に来ることも、運命付けられていたような気がするんだ」 「えー、マジで? そうだったりしてな」 軽く笑い合いながら彼と一つになる感覚を味う。 「ハニー、苦しかったら言ってくれよ」 徐々に腰の動きを早めていく。苦しいなんてことは全然ないんだけど、仮に苦しくても、彼がしたいようにさせてやりたい。 「だいじょぉぶ」 ついへらっと笑って、彼にしがみつく。 俺と彼の汗が混じり合うのを感じながら、彼の動きに息を合わせていく。 「ちゃんと気持ちいいから」 ゆるく腰を揺らされるのを、マッサージされてるみたいに穏やかに受け止める。 徐々に腰の動きが強くなるのも、ちゃんと受け止めた。

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