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第142話
彼はそのまま俺の隣で大の字になってしまった。
「あとで風呂に入ろう」
うっすらと微笑みながら言う彼の懐に寄り添う。
「背中流してやるよ」
じっと目を見つめながら返すと、背中だけじゃなく全部洗ってくれ、なんて露骨に不満そうな顔をする。
「ったく、しょうがねぇなぁ、俺の旦那は甘えん坊で」
「旦那じゃなくて王子と言ってくれ、お前はプリンセスなんだから」
「百歩譲って俺がプリンセスだとしても、お前は全然王子様って感じのナリじゃないからな? 王冠もかぼちゃパンツも白馬も似合わねぇよ」
「わからないだろう、着てみたら似合うかもしれないじゃないか」
「いや絶対似合わねぇって。ってか着れる機会あっても着ないで、俺笑い死にするから」
「お前に死なれたら困る」
「だろ? だからそのままでいいって」
どうでもいいやり取りを、笑い声付きで繰り返す。なんでもないやり取りが、たまらなく愛しい。
「お前と体を重ね合うたびに、お前と話をするたびに、どんどんお前のことを好きになっていく。愛している」
軽く唇を奪われた後に、抱きすくめながら彼が言った。俺だって同じことを思っているのに、先に言うなんてズルい。
「どーもありがとよ」
せめてもの仕返しに、横になったまま無理やり背伸びして、彼の額に口付ける。
月の位置はだいぶ傾いていた。抱き合いながら眠りにつこうとしている俺と彼の裸を、爪先まで照らして。
ゆっくりと、夜は更けていった。
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