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第144話
「とんでもないオブジェじゃないですか」
もちろん悪趣味という意味で。
「この宿自体移転してきたものですので、それに合わせて、実際にあったお墓もレプリカを作って裏山に設置してあるのです。ですが、魂入れといいますか、移転するにあたり、実際に御坊様に祈念をしていただいたそうでございます」
「あ、じゃあ結構モノとしてはガチめのオブジェってことですね」
「左様でございます」
聞いた途端にゲンナリした。やっぱりそのテの話は苦手だ。
「つまり彼らは、ここに眠っているのか」
彼は静かに言いながら、オブジェの前にしゃがみ込んだ。
「日本では、手を合わせるんだったな?」
拝むように手を合わせる。
「ハニーもお祈りしよう」
「お祈りって」
「愛し合う彼らのために」
「……」
まぁ、俺がゲンナリしたところで、ここに眠る彼らには罪はないか。
同じようにしゃがんで手を合わせる。
あぁ、線香とか持って来ればよかったかな、なんて、今すぐ準備もできないもののことを思う。
数秒の間手を合わせ目を開けた。
自分の実家の墓にももう何年と行ったことがないのに、なぜか赤の他人の、しかも墓のオブジェの前で、俺は静かに祈った。
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