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第146話
数日経ち、仕事が始まっても、俺と彼の共通の話題はあの宿のことだった。
「本当に素晴らしい宿だったな」
「だなー、また行きたいな、なんかの記念日とかに」
思い出って時間が経つと美化されがちだけど、レベルの高い宿だったから思い出のレベルも高い。
けれど、俺たちの思い出話の横で、秘書サンは不思議な顔をしていた。
「社長、あの、そのお宿ですが、例の日本家屋のお宿でしたよね?」
「日本家屋というのか、昔遊郭という売春宿のような場所だったらしいが」
「売春宿……」
ますます不思議そうな険しそうな顔をする。社長と秘書サン、2人の顔を交互に見つめるが、明らかに秘書サンの表情がおかしい。
「おかしいですね、私が予約いたしましたのは、戦国武将のお屋敷に端を発した江戸時代から続く由緒正しいお宿で、売春宿だったというお話ではなかったはずですが」
「えっ?」
話が違う。
もちろん、遊郭だっていうのを売りにしてたわけじゃないけど、戦国武将のお屋敷がどうのって話は何一つ聞いていない。
「失礼ですが、本当に私が手配させていただいたお宿にお泊まりになられたのですか……?」
秘書サンの険しい顔を見てから、俺と彼は顔を見合わせた。
「じゃああの宿……なんだったんだ?」
【終】
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