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第8話
「ねー、北見先生。聞いていい」
その日の夜、診察をしているとき、ロイがなにやらおずおずとした様子で話しかけてきた。
いつも屈託なく、はきはきと話しかけてくるのに、なんだか今日は視線をきょときょとと彷徨わせ、落ち着かない様子である。
「ん? なんだい? 改まって」
「……あの、さ。あの……やっぱりお医者さんって、看護師の女の人とか、おんなじ医者の女の人とかと、そのお付き合い、することが、……多いの?」
「は?」
思わずロイを凝視すると、なんだか思いつめたように大きな瞳を揺らしている。
北見は鈍感ではない。
ロイが聞きたいことの真意はすぐに分かったが、もう少しこのかわいらしい少年におしゃべりをさせたかった。
「そうだね。どうしても出会いの場所が限られているからね。やっぱりそういうパターンが多いかな」
ロイの気持ちを知りながら、意地悪だなと自分でも自覚しながら俺がそんなふうに答えると、ロイは分かりやすくみるみる萎れていく。
掛け布団を握りしめ、唇を噛みしめてからロイは言葉を紡いだ。
「……北見先生も……?」
すがりつくような潤んだ瞳。
吐息のような声での問いかけ。
本当にかわいい。
「オレはね、今は目の前にいる患者さんに魔法をかけてあげることで頭がいっぱいかな」
「え??」
ロイは鈍感みたいで、自分のことを言われたのだとなかなか気づかなかった。
「君の具合が悪くならないように、今魔法の腕を磨いているんだよ。俺は」
「き、北見先生……」
単刀直入に言葉を紡ぐと、ロイはみるみるうちに真っ赤になり、布団の中へ隠れてしまった。
愛らしい行動に、北見がクスクスと笑っていると、布団から少しだけ顔を出したロイが、小さな小さな声で質問をしてくる。
「北見先生、……彼女、いない?」
「いないよ」
そう答えたとき、体に激しい痛みが走った。
……やばい。
発作だ……
「北見先生?」
俺の異変に気付いたのかロイが布団から顔を出し、こちらを心配そうに見上げてくる。
「どうかしたの?」
「な、んでもないよ……」
突き上げてくるような痛みに耐えながら、無理に笑って、見せる。
「ちょっと、行かなきゃいけないところが、あるから。……またあとで、見に来るから、ね……」
なんとかそれだけ口にすると、俺は足早に病室から立ち去った。
発作を抑えるための薬を自分へ投与しながら、ロイの笑顔を思い浮かべる。
オレの命は助からなくても、ロイ……君だけは救ってあげたい……。
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