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第9話

「明日は誕生日だね、ロイ」  病室に入るなり俺がそう言うと、ロイは大きな目をパチパチさせて、驚いた。 「えっ……北見先生、僕の誕生日、知ってくれていたの?」 「勿論」 「先生……」  ロイが潤んだ瞳で北見を見つめてくる。澄んだ綺麗な瞳に心が甘く揺さぶられる。 「明日で君も二十歳だね」 「うん。お酒も飲めるし、選挙権だってあるんだよねー」  そう得意げに笑うロイの姿はまだまだ子供だ。  俺はやさしく微笑みながら問いかけた。 「なにか欲しいもの、ある?」 「えっ?」 「誕生日プレゼントだよ」 「えっ、えっ? いいの?」  本当はよくない。  医師が一人の患者に特別に入れ込むのは決して褒められたことではないだろう。  それでもとめられない。  ロイがうれしそうに笑ってくれる顔が見たくて。 「いいよ。オレがプレゼントできるものなら、なんでも言って」  自分でも目尻が下がっているのが分かる笑みを浮かべて言うと、ロイはおずおずと言葉を紡いだ。 「あのね、僕、北見先生のおうちへ泊まりに行きたい」 「……えっ?」  てっきりなにか物を欲しがられると思っていたのに、予想もしていなかったリクエストにさすがに少し戸惑ってしまう。  俺は困惑を隠せなかった。  だってロイのお願いを聞いてあげることはできないから。 「ロイ、それはできないよ」 「どうして?」 「どうしてって……君は入院中の身だし、それに」  しかし俺の断りの言葉は途中で遮られる。 「北見先生」  いつになく、キッと強いまなざしできこちらをにらみつけるロイ。  怒った顔もかわいいのだけれども、その怒りのオーラは半端ない。

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