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第12話

「改めて誕生日、おめでとう、ロイ」 「ありがとう、北見先生」  ロイは花がほころぶように笑ったあと、ケーキの上に立てられたローソクを吹き消した。  こんなふうにケーキを前にして、誰かの誕生日を祝うのは一体何年ぶりだろう。  無邪気に喜んでくれるロイを見ていると、今日こうして彼の誕生日を祝ってあげられてよかったと心底思う。  俺がロイに用意した誕生日プレゼントはマフラーと手袋のセット。ブラウン系の落ち着いた色合いのそれはロイには少し大人っぽすぎるが、来年の冬も再来年の冬もどうかこれを身に着けることができるようにとの願いが込められている。  そのとき、俺は君の傍にはいないだろうけれども、君だけには奇跡が起きて欲しいから。 「ところで、ねー先生」 「ん?」 「さっきから気になってたんだけど、あそこにかかっている時計、止まってない?」  ロイがリビングの壁にかけられた時計を指さして指摘する。 「……ああ……」  俺は時計を一瞥して、すぐに目を反らした。 「……ついめんどくさくてね。腕時計があるからあの時計が止まっていても特に不自由は感じないし」 「そうなの?」 「ああ」  自分の体が病魔に侵されていると知ったあと、いつの間にか止まっていた時計。  新しい電池を入れて、時計を動かしてやらないのは、このまま時間が止まってしまえばいいと願っているからか、それとも、いつ尽きるか分からない命を抱えているのに時を刻むことを再開させることが虚しいのか。  どちらなのか俺自身にも分からない。 「……でも先生。時計はやっぱり動いているほうが自然だと僕は思うよ?」  ニッコリと微笑むロイ。  いつだって真っ直ぐで無邪気な君。  君の命の灯があと一年足らずで消えてしまうなんて、耐えられない。    オレに残された命も短いけれど、その短い命を削ってでも、ロイ、君にあげたい。  君には生きていて欲しい――――。

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