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第5話

「聡介、また放課後に映画見ようぜ」 「いいけど……サトル君達ほっといていいの?」 「いいんだよ」  “正しさ”を手放した優斗は、聡介と多くの時間を共に過ごすようになった。  聡介と居ると“役”を意識しなくて済んだ。  暗い視聴覚室で、並んで古いホラー映画を見る。  恐怖を煽るBGMに身を寄せて固唾を呑む。  女性の叫び声と共に飛び上がり、お互いの手が重なった。 「ビビりすぎ」「そっちこそ」とくつくつと笑い、見詰め合い、どちらともなく唇を重ねた。 ――男同士でキスなんて正しくない。今ならまだ悪ふざけで済む。  そんな思いをよそに、聡介は身を引く優斗の肩を掴み、今度は深く口付けをする。  スピーカーから男性の悲鳴が響く中、お互いの舌が絡む水っぽい音が妙にクリアに聞こえた。  唾液がつ、と糸を引いて離れると、長い前髪の隙間から聡介の黒い瞳が見えた。  宝物を見つけた少年のようにキラキラと輝いていた。  何度も唇を重ねているうちに、いつの間にか映画は終わっていた。 「聡介、今度二人でどこかに出かけよう。お前、普段はどこで遊んでるんだ?」 「んー、ゲーセンばっかりだなぁ」 「じゃあお前が得意なゲーム、教えてくれよ」 「それ、優斗は楽しくないんじゃない?優斗は行きたいところとか無いの?」 「……笑うなよ?」 「え?何?ことにもよるけど……」 「駅前のハロウィン限定の南瓜ソフトクリームが、食べたい」  普段の毅然とした態度ではなく頬を染めてぼそぼそと言う優斗の姿に、聡介は思わず破顔した。  馬鹿にされたと勘違いした優斗は更に顔を赤くして憤慨するので、可笑しくて益々口元が緩んでしまう。  優斗を宥めて、聡介が言った。 「でもさ、俺みたいなヤツと歩いてるとこ他の人に見られたら、優斗が何か言われない?」  俺ゾンビみたいだし……と卑下する聡介を鼻で笑い、そんなの言わせておけばいいんだよ、と答える。  そしてしなやかな手を聡介の額へと伸ばし、前髪を掻き上げた。  聡介の顔が露になる。 「お前ゾンビとか言われてるけど、良く見れば悪い顔してないよ。猫背伸ばせば結構スタイルいいし」  優斗が嬉しそうに予定を立てる。  今週末はお前とゲーセンに行って、ソフトクリームを食べる。そんで別の日に服を買おう、聡介は背が高いからきっと何でも似合うよ。その野暮ったい髪も切った方が良い……美容院に行った事が無い?じゃあ一緒に行ってやる。来月公開の映画、アレはグロくてお前好みだよ、きっと。一緒に見に行こう、約束だ。 「なんだか、デートみたいだ」  聡介が照れながら呟くと、デートだよ。と優斗はニカッと笑った。

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