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第6話
サトルは、優斗が自分よりも聡介を構うのが面白くなかった。
優斗という潤滑剤が抜けた一軍グループは亀裂が生じ、険悪な雰囲気になる。
そのうちサトルが聡介にキツくあたるようになった。
机を蹴る、ゴミを投げつける、筆記用具を窓から捨てる、など。
一軍のサトルがそうすることで、聡介は“そのように扱われてもよい存在”と周りからみなされるようになった。
二軍もそれに習い、続いて三軍も真似をする。
優斗がいくら「やめろよ」と声を上げても、ただの体裁、もしくは茶番としてとられるだけだった。
そしてデート前日の体育の時間、事が起こった。
サトルが聡介に怪我をさせたのだ。
「うっ……く……っ!」
体育館の床に踞り、足を押さえて呻き声を上げる聡介。
優斗は駆け寄ろうとして、やめた。
――俺が役割を放棄して正しい選択をしなかったから、聡介が怪我をしたんだ。
翌日のデートはもちろん流れ、聡介はしばらく療養のため学校を休んだ。
優斗が元のグループに戻り聡介への嫌がらせは無くなったが、二人が言葉を交わす事も無くなった。
怪我のせいで聡介は常に片足を引きずるようになり、益々ゾンビのようになってしまった。
――俺のせいで、聡介の足は一生あのままかもしれない。
何度も声を掛けたくなったが、片足を引きずる聡介を見ると、どうしても躊躇われた。
聡介の方も、何かを察してか優斗に声をかける事は無かった。
謝れば聡介は笑って優斗を許すだろう。それどころか「優斗は何も悪くない」と笑うに決まっている。
それに絆されて距離をつめれば、聡介はまた酷い目に遭うかもしれない。
それは、正しくない。
それから、お互い干渉せずに過ごし、高校を卒業した。
優斗は流されるまま大学へ、聡介は幼いころからの夢であるゲームクリエイターを目指して専門学校へと進学した。
足を引きずる聡介を見る度に、罪悪感が蓄積されていく。
卒業して、もうその姿を見る事も無いのだと思うと、心底ホッとしたものだ。
だけれど、聡介の亡霊は優斗の中に住み着いていて、大学で授業を受けていても、友人とバカ騒ぎをしていても、女とセックスをしていても、頭の隅に聡介の姿がチラつき罪悪感に押しつぶされそうになる。
そんな毎日から抜け出したくて、聡介の名を見つけたハロウィンイベントに来たのだ。
陰から聡介の元気そうな姿を見られれば、亡霊が消えてくれるのではないかと思ったからだ。
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