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第7話

 クラブ内のカウンターで酒を煽りながら過去を吐露する優斗の話を、聡介は穏やかな面持ちで聞いていた。 「聡介ごめんな。お前の足がそんな風になったのは俺のせいだ」 「何言ってるんだ、優斗は何も悪くない。また会えて嬉しいよ」 「……俺は聡介が羨ましい」 「おいおい、懺悔の次はやっかみか?」  優斗は夢を追う聡介が羨ましかった。  幼い頃からゲームが好きで、日々努力し、今は学生ながら若手クリエイターとして活躍している。  それに引き換え自分は、ただ役割をこなすだけ。  大学で知識を詰め込み、ベターな企業に就職し、手頃な女と結婚して、老いていく。  それが、正しい選択。 「……優斗、その正しい選択が、どれほど難し事か分かってるか?他でそんな事ほざいたらぶっ飛ばされるぞ」 「俺は夢も無くて、つまらない人間だよ」 「優斗って、勉強はできるくせに馬鹿なんだな」  そう言って、聡介は喋り始めた。  世の中には夢が持てない人間は山ほどいるが、それは悪じゃない。  俺は小さい頃からゲームが好きで、それがたまたま夢になったけれど、夢を思い描くにはそもそも訓練が必要なんだ。昨日の今日で人生を賭けられる夢なんて見つけられないよ。  なあ、五十年後の優斗は何をしていたいか想像して?……簡単には思い浮かばないだろう?じゃあ十年後は?五年後は?一年後は?  未来の優斗は何をしていたら幸せだと思える?意識をフル活用して思い描いてみろよ……無理か。じゃあ 「じゃあ、明日、明日の夢を思い描こう。明日が人生最後の日だとしたら、優斗は何がしたい?」  優斗はその言葉を聞いて、思案した。   明日が、人生最後の日だとしたら、自身が最も望む事を叶えたい。 「……聡介と、ゲーセンに行きたい」  ゲーセンに行って、ハロウィン限定の南瓜ソフトクリームを食べて、時間が余れば聡介に服を選んであげたい。  更にもう一日生きられるのであれば、美容院に付き合ってやりたいし、映画も見に行きたい。  それから、それから……。 「ほら、やりたい事、いっぱいあるだろ?毎日やりたい事をやってれば、自ずと夢が見つかるさ。 優斗は哲学的ゾンビなんかじゃない。役割を演じるだけの傀儡でもない。ただ、ちょっと優し過ぎただけだ。自分を抑えてまで他人を優先し過ぎただけだ」  そう言って、聡介はいつかみたいに優斗の背中をさすった。  止まったはずの涙が溢れそうになる。 「優斗、明日こそデートしようよ」 「いや、でも学校あるし、そもそも男同士で……」  正しくない、と言おうとする優斗の言葉を遮って、聡介は高らかに言い放った。 「正しさなんてクソくらえ」

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