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第8話

 じゃあ、また明日。  立ち去る優斗の背中を、クラブの入口から見送る。  優斗の姿が見えなくなると、聡介は踵を返し淀みない足取りでクリエイター仲間が集まるVIPルームへと向かう。  足を引きずる素振りも見せず颯爽と歩き、前髪を掻き上げて顔が露になると多くの女が振り向いた。 ――思惑どおりで笑えてくる  高校の時、始めはただの優越感だった。  垢抜けていて人気者の優斗が、冴えない自分に話しかけてくれるのがただ嬉しかった。  それが独占欲に変わっていくのはあっという間だった。  優斗の全てが欲しい。  色素の薄い髪も、綺麗な顔も、形の良い唇も、しなやかな身体も、繊細な心も、全て。  だけど普通の方法では叶わない。  正しい選択をし続ける優斗は、普通に女と交際し、結婚し、当たり前の幸せな人生を謳歌するだろう。  そんなのは絶対に嫌だった。  たとえ交際まで至らなくても、優斗の中でふとした瞬間に思い出してもらえる“しこり”のような存在になりたかった。  そのために、優斗の中の罪悪感を利用した。  気性の荒いサトルとすれ違う際に舌打ちをして、自身が虐められるようにしむけ、体育の時にはわざと足を捻って傷付いたフリをした。  自分のせいだと動揺する優斗の顔を見て勃起してしまい、局部を隠すために必死で背中を丸めたものだ。  医師には軽い捻挫だと診断されたが、大げさに何日も休んだ。  それから、教室でふとした瞬間に視線が交わる度、優斗の目には罪悪感が浮かび、聡介はそれを見てほくそ笑んだ。  そうやって少しずつ聡介の亡霊は優斗を蝕んでいったのだ。  明日は念願のデートイベントだ。  わざとダサイ服を着ていって、優斗に新しい服を選んでもらおう。  前髪をおろしていけば、また額に触れてくれるかもしれない。  足を引きずって更なる罪悪感を植え付けると共に、よろめいて優斗の身体に触れてみよう。  きっと、楽しい一日になる。  ニヤついていると突然脳内に【メールです】という無機質な声が響いた。  聡介は興が醒めたように【リセット】と言う。  すると人も壁も何もかも消え、世界が暗転していった。

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