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甘い罠

「マツバ、こっちへおいで」 西園寺の服を皺にならないよう箪笥に収めていると彼に手招きをされた。 「はい、旦那様」 畳に敷かれた布団の上で胡座をかいて座る西園寺がマツバを目の前に座るよう促す。 「なんでしょう?」 西園寺はにこりと笑うとちょこんと座ったマツバの目の前に、小さな包みを置いた。 「マツバに特別なプレゼントだ」 マツバは可愛らしい兎の手拭いに包まれたその包みと西園寺の顔を見比べた。 「プレ…ゼント………」 小さく呟くと、その包みをじっと見つめる。 あまりにも見つめるばかりで、なかなか手を出そうとしないマツバを不思議に思い西園寺がほんの少し眉を顰めた。 「こういうのは受け取らない主義か?」 西園寺の言葉にマツバ慌てて首を振った。 「違います!あの、今までお客様から差し入れをいただいた事がなくて……」 淫花廓は高級廓だ。 男娼たちは大事な商品として扱われているため、外部から持ち込まれる食べ物や物は禁止されている。 持ち込んだものによって男娼たちが傷つけられたり、また危険が及んだりするのを未然に防ぐためだ。 しかし、この淫花廓と契約している特定の専門店からなら差し入れができる制度がもうけられている。 もちろんその店も高級店ばかりで品物も値が張るものばかりなため、上客からの注文がほとんだ。 中には特別な差し入れもあったりするのだが、その品物を頼む権限は上客の中でも特別な客にのみしか与えられていない。 マツバは今まで自分を指名する客の中に上客の客がいなかったため、こんな風に贈り物を貰った事がなかった。 張見世の中で、夕べは金粉の乗った寿司を貰ったとか、美しい西陣織りの帯を貰ったなどと口々に自慢する先輩男娼たちの話しを、どこか羨ましく思いながら聞いているだけだった。 男娼としてまだまだ未熟者な自分には、客から差し入れを貰うというのは夢のまた夢のような話で。 だから、目の前に置かれた生まれて初めての差し入れにどう反応していいのかわからなかったのだ。 「そうか、なら俺が初めての相手ということになるんだな」 西園寺があまりにも嬉しそうに笑うので、マツバは真っ赤になって俯いた。 あながち間違ってはいないのだが西園寺に言われると何だか別の意味のように聞こえてしまう。

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