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甘い罠2
「あの……開けてもよろしいでしょうか?」
「あぁ。受け取ってくれたら俺は泣いて喜ぶよ」
軽口を叩く西園寺に苦笑しながら、マツバは可愛らしく包まれた結び目をほどいた。
中には美しい花と幾何学模様の描かれたエレガントなパッケージの箱が入っていていた。
可愛らしいリボンに心を躍らせながら、箱の蓋をそっと開ける。
中を見た瞬間、マツバの顔がぱぁっと明るくなった。
「チョコレート……!」
嬉しさのあまり思わず声が出てしまう。
男娼としてここで働くようになってから、甘いものいうものは殆どわたった事がない。
朝昼晩の食事以外に間食が出される事はなく、それ以外で口にしてもいいのは客から貰う差し入れのみと決まっているのだ。
当然ながら自分で買う事もできないので、この遊郭、特に上客のいなかったマツバにとって甘いものというのは大変貴重なものだった。
マツバは甘いものが大好物で、特にチョコレートには目がない。
久しぶりに嗅ぐカカオの香りを胸一杯吸い込むと自然と顔が綻ぶ。
一粒一粒形が異なった色鮮やかなチョコレートはまるで美しい宝石のようで、食べるのが勿体ないくらいだ。
整然と並んだチョコレートをうっとりと眺めていると、西園寺の手が延びてきて真ん中にあったハート型のものを摘まむとマツバの口元に運んできた。
「眺めてばかりいないで食べてくれると嬉しいんだけどな」
もう少し箱の中の完璧な状態を眺めておきたかったけれど、目の前に差し出された大好物を前にして食べないわけにはいかない。
おずおずと口を開くと、小さなチョコレートが放り込まれた。
久しぶりに口にする好物は、口の中で蕩けるとあっという間になくなってしまった。
「美味しい」
蕩けるチョコレートの上品な甘さにうっとりとしていると、もう一つ口に放り込まれた。
今度のは中にナッツクリームが入っていて香ばしい。
次々に口に入るチョコレートはどれも味が異なっていて、それぞれが美味しくてあっという間になくなってしまった。
もう少し味わって食べればよかった…
名残惜しげに空になった箱を眺めていると、マツバの唇についたチョコレートを指先で拭いながら西園寺が微笑んだ。
「お気に召してくれたかな?」
「はい、とても…とても美味しかったです。ありがとうございます」
「そうか、なら今度は俺が食べてもいいかな」
西園寺はそう言うと、マツバの着物の裾から手を入れてきた。
白くしなやかな足が露になり、太腿を意味深く撫でられる。
二人を取り巻く空気が一気に濃密なものに変わった。
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