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新生活
5月上旬
今日から登校だ……
今になって緊張してきた……どうしよう、なんか吐きそう
元気よくとはいかない真新しい制服を着た俺はのそのそと重たい足取りで玄関を出た
お調子者の母さんや父さんは翔の新生活だね!なんて言って朝から盛り上がってるけど正直朝の寝起きはあまりよくないので勘弁してほしい
俺が新しく通う学校は家からバスに乗って最寄り駅まで行きそこから地下鉄で5駅、そう遠くはない
今は最寄り駅から地下鉄乗り場へと移動中
やっぱ東京って人多い…気持ち悪い………
そう心の中で苦言を吐きながら手のひらに3回「人」という文字を書いて飲み込んでみるがそれは今じゃなかったっぽい
すれ違う人に笑われてしまい恥ずかしくなった
俺が行くのは東京都にある北高校
どうやらこの辺では有名なマンモス校らしい
敷地面積はちょっとした大学のキャンパスのように広く、校舎もほかの高校に比べるとかなりのものらしい
そのうえ設備が整っていて講堂や図書館は無駄に広い
しかも野球部やバスケ部、サッカー部や吹奏楽部なんかも全国大会に出場してるとかなんかで県外からの入学者も多いそうだ
やばい、そんなこと考えてたらもう手汗が…
手のひらを見るとじんわりと汗がにじんでいた
拳を握るとぐちゃりと滑って気持ち悪い
どうやらかなり緊張しいな俺は、これから自分が通うことになる学校の迫力に思いの外押されているらしい
ってか押されているのは俺の気持ちだけでなく俺自身もぐいぐいと押されてるんだけど…
というのも今現在俺は人生初の満員電車に押し込まれている最中なわけで…
あいたたた、誰か足踏んだ!
誰かの足が俺のつま先の上に乗っかってぐにっと指先を押しつぶされてしまう
背中には人の重みを感じ、そんな自分も誰かを押している
こんな感覚はじめてだ
これでもかって言うくらいに人間を押し込めるもんだから、これは降りた方がいいんじゃないかって思ったけどどうやらそれも不可能らしく、俺は仕方なくこのまま人の波に流されていくしかなかった
もういいや、と諦め辺りを眼だけでキョロキョロ見回すと目線の先に俺と同じ制服の人が見えた
どうやら同じ高校の女子生徒らしかった
ただネクタイの色が違ってるあたり、きっと他学年の生徒なんだろうと思う
長い茶髪をポニーテールにしたその人は、こんな人の多い電車の中でもイヤホンを着けてスマホから目を離さない
なんかすごいな…いかにも都会人って感じ……
なんだか急に自分が場違いなような気がしてくる
元々都会の満員電車は「すごい」とは聞いていたものの、まさかここまでだとは想像もしていなかった
こんな俺がこんな都会でこれから生活していくことは、果たしてできるんだろうか
なんていろいろ考えているうちに電車の扉が閉まり、出発のアナウンスとともに車体が動き出した
あああああ暑い…めちゃくちゃ暑い
電車が進みはじめたのは良かった
だがそこからが問題だった
電車が少しでも揺れるたびに隣の人と体が異常なまでに密着する
それが無意識に俺の体温を上げて身体中にじんわりと汗をにじませていく
さすがにこれだけ人が密集していれば暑いに決まってる
俺の周り、なんか汗だくな太ったサラリーマンっぽいおっさんばっかだし
あーあ、俺、新しい学校でやっていけんのかなぁ……
友達できなかったりしたらどうしよう
もしかしてイジメやパシリの標的にされちゃったりしてさ、毎日購買までダッシュで焼きそばパンとカフェオレを買いに行く日常になったらどうしよう…
訳の分からない不安が頭をよぎる
それにこの無駄に暑い車両がまたそれを煽る
俺もいつかはこの状況に馴染んじゃったりするのかなぁ…
なんてぼやっと考えてみる
だけど自分がチャラチャラした服装をしたり制服を無駄に着崩したりしている姿はやっぱり気持ち悪くてとっさに頭の中から消し去った
「っ!?」
だけど呑気なことを考えていたのも束の間、俺は自身の尻に妙な違和感を感じ体が震えた
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