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高村翔

「今日うちに転校生くるんだろー?」 「どっから来んの?」 「男だって聞いたよ」 「イケメンだといいなー」 「輝くんよりイケメンな人がいるわけないでしょ」 2年5組と書かれた教室 ドア越しに俺のクラスメイトであろう人たちの声が聞こえてくる 賑やかな会話に耳を傾けてみると、俺の話題でもちきりだった そんな新しいクラスメイトたちの声を聞くたびに心臓がドキドキと鳴り響いて俺の胸を暴れる またしても両手をぎゅっと握りしめてみると、やっぱり乾かない手汗が気持ち悪かった ごめん、別にイケメンじゃないんだ… だからそんなに期待しないで待ってて欲しい… クラスメイトたちからの変な期待に緊張を覚えてしまう この俺に何を期待したのかイケメンだイケメンじゃないだと騒いで止まらない声に思わず不自然に肩が上がってしまう うう………期待の声が苦しい… 「大丈夫、そんなに緊張しないで落ち着いて」 「は、はい………」 「ほら、力ぬいて」 海老名先生が俺の肩をポンポンと軽く叩いて優しくなだめてくれた びっくりして海老名先生の方を見ると、にっこりと優しげに微笑んでくれる 少し安心した俺は肩の力をふっと抜くように深呼吸をした 「じゃあ、行こっか!」 よし、と心の中で気合いを入れた ここでうだうだしててもしょうがない こんなところでつまづいていたら、この先約2年やっていけないよな ぐっと眉間に力を入れて、一度太ももをパシンと叩いた ぴりっと痛む太ももの皮膚が、俺の緊張を思いの外どこかへやってくれたように感じた 先生の後に続いて俺は賑やかな教室へと足を踏み入れた 「みんなー!ホームルーム始めるから座ってねー!」 海老名先生のよく通る声を聞き、席を離れていた生徒たちがはぁいと言って次々に自分の席についた 先生の後に続いて教室に入った俺は、予想通り視線の中心にいる 注目なんてされ慣れていない俺は顔がかぁっと赤くなったような気がする 自分じゃよく分からないけど 恥ずかしさを抑えて教室をぐるりと見まわしてみる 教室にはさっきの登校中と同じように派手な見た目の人もいれば、いたって普通の俺が知ってる高校生の姿をした人もいる 「アイツ、転校生じゃね?」 「意外とフツー」 「でも普通にカッコよくない?」 「めっちゃ普通」 「輝くんには及ばないよね」 俺が教室に足を踏み入れ、教壇に立つや否やざわざわと辺りが騒がしくなる みんな隣の席の人とコソコソをなにかを言っているようだったけど、一番前の窓際の金髪クンの声だけはやたらと大きくて聞こえてきた さっきから普通普通って、みんな失礼だな… 「はい、みんな注目!」 先生が大きな声でそう言うと、クラスの声が一斉に止みクラス全員の視線が俺に集まった なんだかますます緊張する クラスをゆっくり見回すと、 所々金髪や茶髪のやつが目立つけど、ほとんどはみんな黒髪で至って普通の高校生が多かった さっきから俺を見て普通普通といってるやつは金髪だったけど 俺の後ろの黒板に先生が白いチョークで俺の名前を書いていく 丁寧に書かれていく文字を目でわざとらしく追いかけるけど、本当はみんなの方を向くのが少し怖いだけ 「はい!高村翔くんです!自己紹介して」 「名前もフツー」 名前が普通ったってしょうがないだろうが! と高ぶる気持ちを抑えて自己紹介をする 「転勤で愛知県から来ました、高村翔っていいます、 俺まだ東京とか分からないことだらけだけど、みんなと仲良くできたらいいなって思ってます、よろしくお願いします!」 長めの一文を一息で言い、ぺこりと頭を下げた よし、噛まずに言えた!! 一難去って、ほっとため息をついた 「よろしくー」 「よろしく高村ー」 するとクラスメイトの明るい声が聞こえてきた そんな教室をぐるりと眺めると、みんな俺の想像とは違って優しく笑ってくれていた 俺自身も心なしか安心して強張った顔の筋肉が少しだけ緩んだ気がした 「みんな、高村くんと仲良くしてあげてね!」 そう言って海老名先生はニコリと笑うと、新しいクラスメイトたちもはぁいと返事をして笑顔を向けてくれた 手を振ってくれる人なんかもいて、ちょっと嬉しかった 「じゃあ…高村くんの席はあっち!窓側のいちばん後ろの席に座ってね!」 先生は俺から見て右側を指差す 先生が指定した俺の席は窓側のいちばん後ろ いかにも転校生が座る特等席みたいで心がソワソワと踊った ちらり、と示された場所とは違う方向に顔を向けると所々に空いた席を見つけた 俺と同じいちばん後ろの、廊下側の端の席 そして教室のちょうど真ん中の席 欠席してるのかななんて思ったが、特には気にしなかった 俺はいちばん端と端から2番目の列の間を通って言われた通りの自分の席へと向かう 向かう途中、さっきの普通普通言ってた金髪君が「よろしくな高村!」と言ってくれた なんだ、いいやつじゃん さっきは心の中で暴言吐いてごめんよ、と心の中で謝った 「お、おう、よろしく!」 そう返して、自分の席についた 前の学校でもこんな端っこの席に座ったことはなかった 慣れない位置にどこか心をソワソワさせながら前を向くと、クラス全体がしっかりと見渡せた 不意に隣の席の男子に目を向けてみる ふわふわとした茶髪のそいつは本を読みながら顔をしかめているようだった どうやら真剣にジ○ンプを読んでるっぽい と思ったらのジャ○プ中にマ○ジンを隠して読んでいた そんな分厚い本に分厚い本重ねて…… なんだか隣の席のやつは変わったやつだなあと思いながら俺は前を向いた

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