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出会い
ゴールデンウィーク明け
オレはいつも通り7時半に起きて、まともな朝食も食べずに着替えと歯磨きだけして7時半45分に家を出た
オレの名前は広崎輝 という
北高校2年
9月13日生まれの16歳
身長185cm、乙女座のO型
好きな食べ物は牛丼とすき焼き
趣味は筋トレだ
最寄り駅へは運動も兼ねてチャリで約10分、少し遠回りしていくのが日課
そこから学校まで5駅の地下鉄に乗る
途中でいつものコンビニに寄って昼飯とミネラルウォーターを買う
高校に通いだして1年たった今ではコンビニの店員のお兄さんとも顔見知りになって挨拶をする仲だ
駅に到着すると手際よく駐輪場に自転車を停めてすぐに改札へと向かう
途中で配っていたポケットティッシュはいつも断りきれずに受け取ってしまい、鞄の中には開けられてもいないポケットティッシュが5つも溜め込んである
改札を見回すと1週間ぶりのいつもの光景
みんな気だるそうに背中を丸めて腕時計やスマートフォンを眺める
他校の制服を着た高校生は数日ぶりに会う友人と仲良さげに話したり、休み期間の土産話をしては笑っている
そんな光景にいつもの日常を感じる
東京で生まれて16年、満員電車や人ごみはもはや日常茶飯事だ
オレは人に流されながら慣れたように地下鉄へと乗り込んだ
今日の車両も結構ぎゅうぎゅうだな……
いつものように余裕のない車内
少しだけ首を動かして辺りを見回す
隣にはイヤホンに夢中の大学生らしき人
まだ慣れないといった感じで苦しそうに顔をしかめる若い女性
それに斜め前にはオレと同じ色のネクタイを締めた見覚えのない男子
ここまではいつも通り、なんら変わらない日常だった
だけどオレは気付いた
この斜め前の男子の様子がおかしいことに
そいつは顔を赤らめて目を右往左往させている
額からはぽたりぽたりと汗の粒が流れ、次第に顔色が悪く変化していく
ぐっと唇を噛みしめ、瞳には涙が浮かんでいるように見えた
最初は具合でも悪いんじゃないかと思った
だけど彼は時折ピクリと体を震わせている
まさか…!
嫌な予感がしてふと視線を下によこすと、予感通りこいつの後ろの男の手があらぬ所に触れているようだった
その手がモゾモゾと動くたびに斜め前の男子生徒はピクリと体を震えさせて怯えている
これは明らかに痴漢…!
正義感とかヒーローを気取るつもりはないけど、困っている人は放っておけない
まずはこいつを安心させないと……
周りに聞こえないように、そっと耳元に口を近づけて囁くようにして言った
「大丈夫、オレが助けてあげるから、少しだけ我慢しててくれるか?」
顔色の悪い彼は大きな瞳をぱちりと開いて一瞬だけオレを見た
そして頷きはしなかったがオレの指示に従ったのか必死に口を噤んでそれを我慢した
助けてあげるから、なんて上からだったかな…
次の駅に着いたらこの痴漢にはオレと一緒に降りてもらおう
この制服ならオレと同じ高校だし、目的地はここじゃないから痴漢に降りてもらう方がよさそうだ
少しでも彼が安心できるように…
ごめんな、もう少しだけでいいから我慢してくれ…
心の中でそう呟いてオレはじっと時を待った
約2分後、駅に到着し揺れる車体がピタリと止まりドアが開いた
それをしっかりと確認したオレはすっと息を吸い込むと、その男の腕を掴んで言った
「すいません、この駅で一緒に降りてもらえますか」
オレは腕にぐっ、と力を込めて痴漢男を電車から引っ張り出した
男はオレに抗って手を振り払おうとしたが、離すわけにはいかない
そのまま男の腕を掴みもう一度事実を突きつけると、周りにいた人が駅員さんと警察を呼んでくれた
電車の方に目を向けると心配そうな、焦ったような顔をして痴漢されてた男子生徒がこっちを見ていた
人の影になってはっきりとは見えなかったが、涙の溜まった大きな瞳と白い肌が印象的な綺麗なやつだった
そいつにむかって大丈夫だよ、と合図を送ると少しだけホッとしたような表情を浮かべた
オレは彼に「さきにいって」と口パクで合図して、駅員と男を取り押さえた
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