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人気者の輝くん

ホームルームが終わると、新しいクラスメイト達がぞろぞろと俺の席へ集まって来た そしてみんなで俺を取り囲んで我先にと喋り出す 「オレ、山本っての!よろしくな!」 「私はサキって言うの!」 「なぁお前、どこ高から来たの?」 「クラスのグル招待するね!」 クラスメイトはみんなフレンドリーで優しかった みんな次々に話しかけてくれるし、俺がしてるような心配事なんて必要なかったみたいだった 「なぁ、翔ってよんでいい!?」 「あ!あたしもあたしも!」 「う、うん、いいよ!もちろん!」 さっきまでの緊張が嘘みたいだ 新しいクラスメイトのおかげもあって手に滲んだ汗はいつの間にか乾いていた こっそりと確認した手のひらには滲んで読めなくなった文字だけが黒く残っている そんな自分の手のひらを見てくすりと笑うと、手に台本を書いていたことがばれて笑われてしまった 「あ、てか今日輝遅くない?」 「輝くんが遅刻なんて珍しーっ!」 「どうしたのかな??」 「輝くん、なにかあったんじゃ…!」 男子のひとりがはっと思い出したように呟いた それにつられてクラスの女子たちもみんな揃ってあきらくんあきらくんと言い出す あきらって誰だろう…… そう言えば教室に空いた席が2つほどあるけどそこに座ってるやつなのだろうか そう思って空いた席を交互に見回す みんながこんなに気にかけるやつなんだろうから、きっと人気者なんだろう すると廊下からバタバタと物凄い足音が聞こえてきた まるで地震でも怒っているのかというような大きな足音に俺は思わずビクッと肩を震わせる バタンッ!! 不思議に思っていた矢先、教室の前のドアが物凄い勢いで開いた そしてその数秒後には後ろのドアも同じように勢いよく開く 俺は再びビクッと肩を震わせて音のした方向へと顔を向ける するとそこにはなぜか女子の大群が血相を変えて迫っていた 「輝くん!輝くんが来てないってどういうことなの!?」 「輝くんになにかあったのよ!!」 「輝くんに何かあったら…私生きていけない!」 「輝くん!!どこなの!」 う、うぇぇええ?? ケバい女子やツインテールの女子、ふっくらとした女子にまたケバい女子、気の強そうな女子にまたケバい女子 みんな口々に欠席であろう彼の名前を呼んだ 酷いやつだとものすごい顔をして涙を流す人もいる 一瞬にして騒がしくなった教室 そんな見慣れぬ光景に俺は口をぽかんと開けて呆然とする な、何事だ? 誰かが学校を休んだからってこんな騒ぎになるなんて そりゃそいつも人間なんだから風邪だって引くだろうに、と内心思いながら喧騒を眺める 息を荒くした女子ばかり しかもその女子たちは揃いに揃って輝くんを連呼し続けている これが都会の普通なのか? 「出たよ、親衛隊…」 俺の隣で顔をしかめるクラスメイト その言葉に俺は目を丸くして分かりやすく驚いてしまう 親衛隊なんて存在するようなやつがいるの!? もしかして俳優とか!? もしくはスーパーモデル!? はたまたアイドル!? 「おいおい、帰れって!輝はまだ来てねぇよ!」 「泣くことないでしょ!」 「あんたたちには関係ないんだから帰って!」 「ほら、入り口邪魔になってんだろ」 クラスのやつらが集まって来た女子たちを必死に追い払う それにしゅんとした女子たちはあっという間に背中を丸めてぞろぞろと立ち去って行く 「なぁ、そのあきらってやつ、なんなんだ?」 隣で喧騒をものともせず慣れた手つきでスマホゲームをしていた山本に尋ねる すると山本はゲームの手を止めて腕を組みうーんと唸りながら話し始めた 「まぁなんだ、輝は学校中の人気者なんだよ」 どうやら俺の思っていた通りのようだ そりゃ都会の高校だもんな、きっと芸能人だって通ってるしファンだっているに違いない そう納得してほうほうと頷いてみせる 「へぇー、すっごいイケメンなのか?」 「イケメンなだけじゃねぇよ、頭も良くて運動神経も抜群、背も高いし腹筋割れてるし声もカッコいい、それだけじゃねぇ、性格までよくってよ、男の俺でも惚れそうだわ」 「あんなのずりぃよな、スペック高すぎて」 「まぁヤリチンだって噂もあるけどな」 そう言って誇らしげに胸を張る山本 他のやつもうんうんと頷いているあたり、みんなから信頼されるようなやつなんだろう 山本は別に自分のことでもないのになぜだか瞳をキラキラさせている イケメンで頭がよくて運動神経抜群で背が高くて腹筋割れててイケボで性格がよくて男でも惚れそう…なヤリチン… どんなスーパースターなんだろう そのあきらくんとやらの姿を勝手に想像してみると、今人気のアイドルグループのセンターに立つ男が浮かんで来た 「そんなにすごいんだ、やっぱ芸能人なんでしょ?それかアイドルとか?」 やっぱ芸能人なんだ それならこれだけ人気があって女子が追っかけ回すのも納得がいく もしかしたら芸能人と友達になれるかもなんて、ちょっと浮ついた考えまで浮かんできた 「ん?ちげぇよ、一般人」 すると山本はキョトンとした顔で俺を見つめて言った 周りにいたみんなも芸能人じゃないよ、と俺の言葉を否定する 俺の予想を簡単に覆されてしまいちょっとしゅんとする でも芸能人でもないのにこんなに人気があるならちょっと見てみたいかも ガッカリしたりびっくりしたりする俺を見てクラスメイトたちは表情豊かだなぁと笑う なんだか少し恥ずかしくて耳が熱くなったけど、そんな光景も新鮮で自然と笑顔がこぼれた 新しいクラスメイトと笑い合っている時だった ガラガラッ また扉が開く おいおいまた輝くん女子かと思いもう一度扉に目線を移すと 「お!噂をすれば輝が来たぜ!」 今朝、俺を痴漢から助けてくれた、あの人が立っていた

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