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再会

人気者の輝くんは今朝、俺を助けてくれたあの人だった 「あああああああああーーーーーっ!!!!!!」 俺は思わず教室中に響き渡るような大きな声を出して彼を指差してしまう 周りにいるみんなが俺の声にびくりと肩を震わせて驚く そんなみんなの動作に自分もはっとして両手で口を塞ぐ 「お前、今朝の!」 向こうも俺に気付たみたいでハッとしたように口を開けた 俺は思わずドアの前にいる彼に駆け寄った 今朝痴漢から助けてもらった時のお礼がどうしても言いたくて、女子よりも早く彼の元へ行った 「あのっ、今朝は、ありがと……!」 口下手な感じが浮き出てしまったような不恰好なお礼ではあったが言えた このままお礼が言えなかったらどうしようと思っていた所だったから心底安心した うわっ、今朝はあんまり顔見えなかったけど改めて近くで見るとカッケェ顔…しかも背高……… 大きすぎず小さすぎない瞳にキリッとした眉 高くて筋の通るスラッとした鼻 少し厚みのある形の整った唇 それにどんな表情でも似合ってしまいそうな爽やかさ 身長は俺よりも10センチ以上は高そうだし、見た感じ確かに腹筋も割れてそうだ これは間違いなく誰もが認めるイケメンだ 「大丈夫だったか?今朝は辛かっただろ?ごめんな、長い間我慢させちまって…」 彼はあろうことか俺の頬にその大きな右手を添えて力強い瞳で見つめながら言ってきた その声は間違いなく、あの時大丈夫って言ってくれた低くて優しいあの声だった ドキッ なぜだか胸がどきんとする そのままドクドクと鼓動が早まっていくのを感じると、俺は心の中で言い訳をし始める なんでドキドキしてるんだ俺 いや、さっき山本くんが言ってたんだもんな、男でも惚れそうだって だからって別に惚れたわけじゃないけど、こういうのって相手の特性だよなきっと 男でもときめかせてしまうみたいな というかなんなんだ、辛かっただろ?って そんなしょげた子犬みたいに眉下げて、頭をよしよししてくるんじゃない! 「どっか怪我してないか?痛いとこないか?」 彼は俺の手や顔、体をぺたぺたと触りながら怪我してないか?なんて聞いてくる 彼の大きな手はすごく熱くて、また胸がどきどきする もうやめろぉぉおおぉおおおおおおお むしろ怪我があるならお前の方だろ! 俺はただ尻触られてただけなんだ! 俺の尻ごとき、大した価値なんてない! 表向きは大人しく撫でられているだけだが、俺の心の中は大暴れだ 「お、俺は大丈夫だよっ!お前こそっ、怪我とか…」 「大丈夫だよ、あ、相手の身柄はあの後警察が来て引き渡してきたからな」 ほんの少し目尻の下がった瞳をきゅっと細めて笑いまた俺の頭を優しく撫でてくる 自分よりも大きくて暖かい手がなぜだかやけに気持ちよく感じる が、そこで俺はふと我に返った 彼が遅刻をしたのは間違いなく俺のせいだという事実が、明るかった気持ちをだんだんと沈めていく 「遅刻…俺のせい、だよな、ごめん…な……」 途端に俺の心は彼への感謝の気持ちと罪悪感で埋め尽くされた 忘れてたけど、やっぱり他人を助けたお陰で遅刻だなんて、もし皆勤賞目指してでもいたらますます心苦しい その上俺は痴漢を任せっぱなしにしてのうのうと学校に来て、厚かましいにもほどがあるといったもんだ 「なんで謝るんだよ、お前は悪くないから、お前が無事で本当によかったよ」 少しかがんで俺と目線を合わせて彼が言う 彼の瞳はまっすぐに俺を見つめて真剣そうな、そんでもって心配そうな色をした 「な?」 そんな真剣な顔もすぐに砕けて、今度はニッコリと笑って首をかしげた そんなに優しい顔を向けられてしまうと、治まっていた胸の動悸が再び激しくなるのを感じてまたさっきと同じ言い訳を心の中の俺が繰り返し唱える 「おいおい、お前ら知り合いか?」 「どんな関係だよ」 「なにイチャついてんだよ〜」 気付くと俺たちの周りにはクラス中の人たちが集まっていた 「やだー輝くん私も撫でてーっ!」 「俺も俺もっ!あ・き・ら・っ♡」 彼に大好きオーラ全開のツインテールの女子に加え、なぜかふざけて山本まで頭を撫でてと迫っている それに対して彼はやーだっ、と言ってチョップで返している 人気者なんだな……… なんだか急に心臓がズキン、と痛くなった気がした 彼とならすぐに打ち解けられそうだって思ったのに、なんだかやっぱり別世界の人みたいで寂しい気持ちが溢れてくる それと同時に俺の瞳から涙が溢れてきた 「お、おい!高村!急にどうしたんだよ!」 山本の声でまた我に返る え、俺…泣いて………? 確認するように顔を触ってみると確かに俺の手には涙らしき水滴がついている それをごまかすように笑ってみせるも、クラスメイトは不思議そうに俺を見つめる 「い、いやっ、なんでもないっ、目にゴミがっ」 そんな言い訳通用しないだろってくらいに涙が出てきた なぜかなんて俺にだって全く分からない 分かっているのは切なくて、寂しい気持ちが俺の中に存在していることだけだ すると今朝の地下鉄の中と同じ、囁くあの声が耳元で聞こえた 「オレの言うことに、合わせてくれよ」 それだけ言うと、彼は急に俺の肩をぐ、と押して無理矢理その場にしゃがませた 「おい!大丈夫か!?腹痛いのか!?」 あ、合わせろってそう言う合わせろ!? 「あ、あいたたたたたた………」 よく分からないけど、言われた通りに合わせて演技をしてみせる こんなんで通じるのか…? 我ながらなんて下手すぎる演技なんだ 「オレ、ちょっと保健室連れて行くわ!」 そう言ったとたん、しゃがんだ俺の腕を掴んで廊下へ飛び出した 俺は彼に引っ張られてなんだったのかも分からずただ身を任せて走った

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