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広崎輝

たどり着いた場所は、保健室だった まさか仮病で保健室に連れて来られる日が来るとは思っていなかった だけど今更引き返すことなんてできなくてそのまま彼に手を引かれた 彼はガラガラっと勢いよく保健室の扉を開けると、保健室にいた白衣の男の先生に向かって言った 「恭ちゃん!ちょっとコイツ腹痛いみたいでさ、ベッド使っていいか!?」 恭ちゃん…? 先生なのにあだ名なのかな、なんて思ってけどそう言えば俺も前の学校で担任の先生をあだ名で呼んでいたのを思い出す そんな風に懐かしんでいると、トントンと小さく肩を叩かれて俺は今嘘の腹痛で苦しんでいる転校生だということを思い出した 「あ、あいたたたたたた……」 すっかり仮病を忘れていた俺は、とっさに彼の言葉に合わせて腹を抱えるようにしてしゃがみこむ どうやら俺は俳優には向かないようだ 「あらやだ大丈夫〜?いいわよこっちおいで」 すると保健室の先生であろう男の人は、見た目と反するなんともまったりとした口調で手招きをした なんだかカッコよく整った顔とはあまりにもギャップが激しくて思わず吹き出しそうになってしまう どうしても笑いが堪えられなかった俺は、しゃがみこんだまま腕で顔を隠して無理矢理すぎる咳払いで誤魔化したつもりになる 彼に促された俺は腰を曲げて腹を抱えたままのそのそと歩いていちばん奥のベッドに座る 一緒についてきた彼は俺の肩に手を置くと、オネエ口調のイケメン先生に声をかけている 「ヒロちゃん、アタシ今から会議でココ締めなくちゃいけないんだけど、よかったら少しの間ココのお留守番頼んでもいい?」 「ん、分かった」 ヒロちゃん…? じゃあお願いね、と小さくウインクをしてオネエ先生が保健室を出て行ってしまった 「ほら、もういいぞ」 彼に肩をトントンと叩かれて、俺はうずくまっていた体を起こす 俺の肩を叩いた彼を見つめるとなぜか視界が滲んでぼやけて見えた 目をこすると手には大きな雫が付いていて、自分の顔面が涙でビショビショだったことに気が付いた やばい、俺泣いて… あわてて自分の顔についた涙をごしごしとシャツの胸元でで拭う すると彼が俺の顔を覗き込むようにして優しい口調で語りかける 「痴漢、怖かったよな、ごめんな、もっと早く気付いてやれればよかったんだけど…」 落ち着いた声色でそう言って俺の隣にゆっくりと腰掛け、優しく肩をさすってくれる 彼の言葉に俺はぶんぶんと首を横に振る なんで助けてくれたのに謝るんだよ もしあの時助けてもらえなかったら俺、今頃どうなってたか…… そう心の中で呟く だけど初対面の人間にそんな風に言えなくて、俺は黙ったまま俯く すると立ち上がった彼は少し腰を曲げてベッドに座っている俺に目線を合わせて両手で涙を拭い、濡れた手を自身のシャツで拭くと今度は優しく頭を撫でてくれる 髪に触れる大きな手、ゴツゴツした指 そのどれもこれもがあったかくて大きくて、そして何だか優しくて気持ちがすっと楽になる なんでだろ…… 同じ男にされてんのに、なんだかこの人に触れられてると安心する… その安心感からなのか、またポロポロと大粒の涙が零れ落ちてくる 「ほらー、泣くなよ、目ぇ腫れるぞ?」 「うぅ…だって、なんかっ、とまんない……っ」 今度は俺の頬を両手で包み込んで困ったように笑いながら俺の頭をうりうりとゆする そしてまた俺の涙を両手で拭ってくれる 少しびっくりしたけど、何だか拒否することができなくてそのまま頬を温められる なんでこんなに優しいんだろう そんな風に考えていると、俺の頬から彼の手がすっといなくなった 軽くなった頬には、じんわりと手のひらの温かみが残る 「お前、名前は?」 ドサっと彼が俺の隣に腰掛けた 隣に並ぶとびっくりするくらい自分の体が貧相に見えるほど、彼の体はがっちりと大きい 「高村、翔……」 「高村な、高村と翔…どっちで呼ぼっかな…」 おずおずと自分の名前を答えると、彼はニコニコ笑いながらも悩むように首を傾げた 「………………翔……」 「おう、わかった!じゃあ翔!」 そんな彼に下の名前を指定してみると、彼は無邪気に笑って大きく頷いてくれた そんな彼に対して泣き疲れた俺はコクリと頷くことしかできない 「オレ、広崎輝!よろしくな!」 彼が俺の方を向いて屈託のない笑顔を見せる それにつられて俺も少し顔がほころんだ 広崎、輝…………… なんかこう、モテそうな名前だ 俺の経験上、あきらって名前の男は揃いも揃ってモテモテだった 「よろしく、広崎、くん」 「おいおい、オレには下の名前で呼ばせておいてお前はくん付けか?」 今度はむっとした表情の広崎くん コロコロと表情が変わって、感情が豊かなのが伝わってくる 「え…あ、あき…?」 「お!いいじゃん!アキなんてあんまり呼ばれないからさ、これ翔だけのあだ名だな!!」 本当はあきら、と言おうとして噛んでしまっただけだけど でも何だか嬉しそうだし特別な感じがして、結局何も言わなかった その後俺たちはしばらく保健室で喋って、その後オネエの先生が保健室に戻って来てから保健室を出た

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