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村瀬健

あー俺、すごく恥ずかしいことしちゃったかな… 柄にもなく泣きまくって挙げ句の果てに同じ男であるアキに慰められるし、さらにはアキに甘えてしまう始末 登校初日にこんなことになって、きっと俺の第一印象は最悪泣き虫男だ 今は2限目が終わった10分休み さっきの出来事がまだ頭の中に鮮明に残って、俺の男としてのプライドを地味に傷つけていく 握ったシャーペンを意味もなくカチカチと押して芯を長く出しては、指で押し戻してを繰り返す ちなみに1限は地学で2限は現代社会 予想はしていたが学校が変わっただけあって進んでる範囲が違うのか、授業の内容も全く理解できなかった 俺は今朝姉ちゃんがカバンに入れてくれたポッキーを取り出しそれをウサギのようにちまちまと食べる 泣いたせいか今日はやたらとお腹が空いていたから助かった 長いポッキーをもしゃもしゃと口の中に押し込めながらふと教室の中心に視線を向けた 目線の先にいるその男は、このクラスだけでなく他のクラスから来た女子たちにも囲まれているようだった やっぱりクラスの真ん中あたりの空いた席は彼のだったらしい モテるなー… あんなにイケメンで優しかったらそりゃモテるか… 話によると頭もよくてスポーツもできるらしいが、これが正真正銘の非の打ち所がないってやつだろう アキの周りにはしっかりとメイクをした女子がわらわらと募っている みんなペタペタとその逞しそうな体に触れ、きゃっきゃとはしゃいで笑っている うわ、さすが………… あんなのの中に入っていく勇気はこれっぽっちもない 俺も誰かと喋りたいなぁなんて思って不意に自分の右側の席に目を向ける こういうのはまず隣の席のやつと仲良くなるのが定番だって漫画で読んだし するとさっきまでずっと漫画を読んでいたはずの隣の席のやつは、なぜか俺の方をじっと見つめていた 机の上に置かれた漫画の間には栞の代わりなのか、定規らしきものが挟んである いや、見ているのは俺ではなく、ポッキー…? バチっと目が合うと、彼はその丸っこい瞳をキラキラと輝かせて何かを訴えてきているようだ 「えっ…と、食べる?」 試しにそう聞いてみて箱を差し出してみる するとキラキラな瞳の彼はぶんっと音がなるくらい大きく頭を縦に振った どうやらポッキーが目当てだったようだ なんだか可愛くて持ってる箱ごと彼に渡した 嬉しそうに俺から箱を受け取って、あっという間にばりばり食べ進める そんなリスみたいに膨らんだ頬を俺はじっと眺める 「おれね!おれね!村瀬健(むらせたける)!!」 そして最期の一口をごくんと飲み込むと、ポッキーの彼ははじめて声を発してくれる あ、意外と声高い…てかめっちゃ元気じゃん… ふわふわの髪に赤とピンクのピン留め ワイシャツの上にはカラフルなパーカーを着ている 目はクリクリしてまん丸で、ばさばさと生え揃ったまつ毛が長い 白くて丸い頬はほんのりとピンク色に染まり、なんともかわいらしい顔をしている 「翔だよね!おれのことは健って呼んでね!」 そう言って立ち上がると俺の席の前に来てぴょんぴょん飛び跳ねた わ、思ってた以上にちっちゃい… 座ってたから分からなかったけど、近くにいる女子と同じくらいの背丈だ 「う、うん!健な!よろしくな!」 「うんっ!」 なんか小動物みたいで可愛い……… リスみたいな愛らしい顔が俺をじっと見つめて、撫でて欲しそうな顔をしたからついそのふわふわな髪をそっと撫でてみる すると彼はぎゅっと目を瞑ってうふふ、と満足そうに笑い俺の手を掴んでもっと撫でさせてきた うわ、これ懐かれた感じがして嬉しいかも なんて少し心を躍らせながらよしよしと頭を撫でていると、頭の中にふと気になる点が浮かび上がってきた 「なんでジ◯ンプの中にマガ◯ン隠して読んでるんだ?」 そう、これだ 教科書イン漫画なら俺も前の学校で何度かしたことがあるしわかるけど、漫画イン漫画はイマイチ分からなかった そもそも隠す意味があるのだろうか…… 「あのね、マ◯ジンって大人の読み物でしょ?でもおれ子供だからジャ◯プで隠して読んでるの!」 俺の問いかけに、健は自信満々でそう答えた そしてすごいでしょう、と言わんばかりのドヤ顔をしてふんふんと鼻を鳴らしている お、大人の読み物? 正直よく分からなかったけど、これ以上聞いても分からないだろうなって思ってたなるほどな、と答えておくことにした ちょっと変わってるけど可愛いし、それにいい奴そうだしでなんだか仲良くなれそうな気がして嬉しかった

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