16 / 234

アキの甘え

「ア、アキ!」 驚いた まさか俺が盗み聞きしてた相手がアキだったなんて 慌ててアキに駆け寄って膝を曲げ目線をアキに合わせる アキの様子を伺うと、ベルトは外れてるしズボンもファスナーまで開けられた状態で黒のボクサーパンツがちらりと覗く 「だ、大丈夫…!?て、あ…俺、邪魔した……?」 「いや、助かったよ」 壁にもたれ掛かるアキはハハ、とはにかんでみせる 首筋をたらりと汗が流れ、それをまたはにかみながら拭ってみせた 助かったってどういう…… 「あの人…彼女じゃ……」 なぜか心がズキズキと痛む なんかこうよく分からないけど、心臓をぎゅっと握りしめられたような感覚 自分でもよく分からないもやもやしたものに疑問を抱きつつアキの声に耳を傾ける 「ちがうよ、3年生、今日の放課後ここに来いって言われて行ったらあれだもんな…」 アキはニコニコと困ったような顔で笑いながら頭を掻く 俯く俺に気付くと俺の顔を覗き込みながらどうかしたか?なんて聞いてくる そっか…じゃあアキの彼女じゃ…ないんだ… 他人の話なのに、まして今日はじめて会った相手だというのにアキの彼女じゃなかったことにホッとしている自分がいる 「えっ…と、大丈夫、か?」 「おう、大丈夫だよ、あ、でも力抜けちまってさ…ちょっと引っ張ってくれるか?」 アキにそう声をかけると返ってきたのは思いもしなかった返事だった まさか、見るからにモテモテなアキが女子に襲われて立ち上がれなくなるだなんて思ってもいなくて驚いてしまう 「あんなに強引に押し倒されるなんて思ってなくてさ…」 そう言ってまた照れたように苦笑いをした なんだか俺が想像するモテる人間のイメージを大分覆されたことに、少し動揺する 「そ、そうなんだ…」 「情けないよな、男なのにさ」 「い、いや、情けなくないって…」 情けないよななんて聞かれてそうだねって言う奴がいるのかも定かではないけど、もし自分がアキと同じ状況に陥ったら俺も同じことになってたかもしれない だから別に情けないとかじゃ、ない… 「そっか、ありがとな!」 アキは俺に向かってキラキラの笑顔を見せる あぁ、きっとこの笑顔にさっきの女の人は惚れたんだろうな…… なんて心のどこかで思ったりした 「とりあえずさ、引っ張って!」 ん!と言ってアキは両手を伸ばす どうやら本当に自分では立ち上がれないようだ なんかちょっと、可愛い… 「お、おう」 俺は戸惑いながらも頷いて、一旦立ち上がってからアキの大きな手を握った アキの手はすごく大きかった 手を見ただけで男って分かるくらいに大きくて、しかも骨ばってゴツゴツしていた その男らしい手を自分の白いモヤシみたいな手と見比べるとため息を吐きたくなる なんか貧相だな、俺の手…… 「ん?どうかしたか?」 「いっ、いや!なんでもない、いくぞ?」 「おう!」 「よいしょ…うわぁっ!!!」 バタンッ!! 引っ張り上げようと力を込めたのはいいが、思ったよりもアキの体重が重くて持ち上がらず逆に俺がアキの方に引っ張られてしまった 気が付くと俺はアキの膝の上 両手をアキの後ろの壁ついた状態で、目の前にはアキの端正な顔があった 顔近っっ!!! しかも壁ドンしちゃった……! 俺を見上げる優しくて鋭い瞳 少し距離を縮めればすぐにでも触れそうなくらい近い唇 アキの暖かい吐息が顔にかかって、なんだか背中がゾクッと震える 「ごっ!ごめんっ!!!」 俺は急いで顔を背けて肩を突き離した 「っへ!?あ、アキっ!?」 ところが突き離そうとする俺の右の二の腕を掴んでグッとアキの方へと引っ張られた 俺の体とアキの体がぴったりとくっついて抱き合っているような状態になる アキは俺の背中と腰に両手を回してぐ、と力を込めた 「ごめん、もー…ちょいこのまま……」 「えっ……?ど、どしたの…?」 「ん、ちょっと疲れただけ…」 さっきの元気な様子とは打って変わって、急にしおらしくなってしまったアキ 俺の腰をそのたくましい腕でぎゅっと抱きしめると、俺の首筋に顔を埋めてぐりぐりしてくる 「細いな翔、ちゃんと食ってる?」 「う、うるさいな…」 「腰ほっそ…」 「うぅ………………」 アキが俺の腰を少しだけするり、と撫でる なんだかくすぐったくてビクッと震えてしまったけど、なんとか堪えた すると不意に、俺の首の後ろにアキの手が触れた その手は優しくすりすりと俺の首筋を撫でる 「アッ……だめ、それだめっ…」 「ん?」 「それ、くすぐったいからだめっ」 「あ、わり、無意識だった」 どうやら無意識で触っていたようだが、俺は耐えられなくなってぶんぶんと首を横に振った パッとその手を俺の首筋から外すと、また元の位置に戻して腰に触れられる ちょっと変な声が出てしまって、一人で勝手に恥ずかしくなる 「いいにおい」 「ちょっ…なに言ってんの、嗅ぐなって……」 「翔の柔軟剤の匂い、すげぇ好き」 「もう………恥ずかしいから嗅ぐなってば」 他の人には聞こえないくらいの小さな声で会話する アキの声が耳にかかってくすぐったい 「アキ、変態みたい」 「男はみんな変態なんだよ」 「アキ、そろそろ……」 「もうちょっとだけ、な、お願い」 アキは俺の首のあたりに顔を埋めてう〜と唸っている なんだか今朝の保健室とは反対でアキが俺に甘えてるみたいだった

ともだちにシェアしよう!