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今日一日

結局あの後しばらくアキに抱きしめられたまま過ごした 他愛のない話をして、最初に喋った時よりも緊張も解けて普通に喋れるようになったと思う 抱きしめられたままだったから少し、いや結構恥ずかしかったが幸い誰も5階に上がってくることはなかった どのくらいこうしてたのか分からないけど、しばらく経ったら「ごめんな!もう解放っ!」と言ってパッと手を離された アキはすっと立ち上がって俺とは反対方向に駆けて行った アキと別れた俺が教室に戻り時計を見るとさっき教室を出た4時から1時間も経っていたようだった 健と女子たちの姿はなく、教室には俺の席に俺のカバンだけが取り残されていた ご丁寧にも鍵を俺のカバンの横に置いていてくれたので意図を読み、教室に鍵をかけて覚えたての職員室に鍵を返却して学校を出た そして今、家に帰る途中駅の近くのスーパーに向かってトボトボ歩いている なんでアキは俺を抱きしめたりしたんだろう 人肌恋しかったのかな…疲れてたのかな…… たくさん触られちゃった… いろいろと理由を考えてみるも、こんな抱き心地の悪いガリガリ男を抱きしめたい気持ちなんて分かるわけがない まぁ、無性に誰かにぎゅってしてもらいたい気持ちは分からなくもないが アキの触れた体がまだ熱を持ってるみたいに熱くて、シャツをパタパタとさせる 考え込んだままゆっくり歩いていると、近くで小学校低学年くらいの女の子が段差につまずいて見事にすっ転んだのが目の端に映った すぐにうわーんと高い泣き声が聞こえてくる 「うわわわ大丈b「なにしてんのよ!大丈夫!?」」 俺の声と被るように、女の人の声がした あわてて駆け寄った俺の隣には金髪のショートヘアでやけに露出度の高い服を着た女 「げ」 「げってなんだコラ」 そう、マウンテンゴリラ(姉)である 「お姉ちゃんとお兄ちゃんありがとー!!」 「気をつけなさいよー!」 見事なズッコケを見せた女の子は姉ちゃんが持っていた花柄の絆創膏を膝に貼ってもらってゴキゲンで手を振って帰って行った 消毒はさすがに出来ていないが、近くの自販機でミネラルウォーターを買って傷を洗った きっと家に帰ったらお母さんに消毒してもらえるだろう 「姉ちゃん意外と女子だよな」 「意外じゃなくても女子ですが?」 バチンッ! 「いったぁぁあ!」 少しからかっただけなのに俺はおでこに強烈なデコピンを食らわされた てかめっちゃ痛い、デコピンというかその長くてキラキラの爪がモロに刺さって痛かったんだけど俺に対して当たり強くない!? 「あんた今帰りなの?」 「そ…そうだけど」 「あたしはバイト〜」 「あ、そう………」 ふてぶてしく尋ねてくる姉に、ひりひりと痛むおでこをさすりながらふてぶてしく答える 俺の姉みさきは、大学でテコンドーのサークルに所属している 姉は小さい頃から父さんの影響で格闘技が好きで、大会での実績もそれなりだ だが大学ではあくまで練習としてサークルに入っているらしく、大会には個人で出場しているようだ 小さい頃から俺と違って格闘技をしていた姉ちゃんは、身も心も俺の50倍は強い 「お姉ちゃんが一緒に帰ってやるわよ、寂しい弟くん」 「頼んでないけど」 「生意気言ってんじゃないよ」 そう言ってまた強烈なデコピンを食らった 俺の隣でコツコツとヒールの鳴る音が響く なんだか姉ちゃんと一緒に帰るのって久しぶりかもしれない 2人とも名古屋にいた頃はよく一緒に帰ってコンビニに立ち寄りをしてアイスを買ってもらった記憶がある 「今日学校どうだったの」 「あぁ、ちk…」 俺はハッとして口を閉じる ちょっと待てちょっと待て 今朝痴漢にあったことを姉ちゃんに言うべきだろうか、いや絶対言わない方がいいに決まってる 頭の中でそう呟く 自分の口が滑らなかったことに安堵してほっと溜息をつくも、その次の言い訳が思いつかないことに気付いてまた頭を回転させる それに一応男として、痴漢にあったなんてこと口が裂けても誰かに言えるようなことじゃないよな… 「ち?」 「ち〜…遅刻しないで行けたよっ、!」 なんとか誤魔化す 遅刻したかしてないかなんて聞いたわけじゃないだろうけど 「そう、友達は?できたの?」 だけど姉ちゃんは大して俺の話に興味を持っているわけでもないのかさらりと受け流して次の質問を繰り出した 「う、うん!できたよ!最初は緊張したけど」 姉ちゃんに話そうと思い今日1日を振り返ってみた 痴漢にあったこと 今日学校で泣いたこと アキに慰められたこと 嘘をついて保健室に行ったこと アキに抱きしめられたこと たった1日でこんなにたくさんの出来事が起こるなんて今までなかったかもしれない というか今日の出来事はかなりアキが絡んでいる 痴漢にあったことも泣いたことも、絶対に姉ちゃんには口が裂けても言えないけど 「あんたは緊張しいだからね…姉ちゃん心配してたんだぞ?」 「大丈夫だって、こう見えて俺社交的なの」 「自分で言うんじゃないよアホ」 少しずつ日が落ちてきた スマホの時計を見るともう6時を過ぎていた 早く帰らなきゃ、母さんにローストビーフのコツ教えてもらえなくなっちゃうな 「姉ちゃんバイト何時から?」 「7時」 「もう6時過ぎてるけど間に合うの?」 「はっ!?」 姉ちゃんは慌てて左腕に付けた腕時計を見る そして時間を時計の文字盤を見るなりギョッとした顔をし、そして俺を睨む やっぱり時間、やばかったみたい 「ちょっ、なんで早く言わないんだよ!」 「え、しらないよ」 俺のせいじゃないぞ 「もう!走って帰るよ!ほら、あんたも急ぎなって!」 「なんで俺も〜」 「うるさい!いいから早く!」 それからなぜか2人で走って家に帰った 本当は駅からバスに乗るはずなのにバスは来るのが遅いと言われ、結局家まで走った なんで俺まで走んなきゃいけないんだよ……とんだとばっちりだ てかあのヒールでダッシュできる姉ちゃんを素直にすごいと思った 結局バイトには遅刻したらしいが

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