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会えるかな
登校2日目
「いってきまぁす」
「翔、転ばないように気をつけるのよ」
「はいはい、心配性だなぁ」
「行ってらっしゃい、遅刻しちゃだめよ」
俺は6時半に起きて眠い目をこすりながら朝食のスクランブルエッグを作り、学校に持っていく弁当も作って支度をして7時45分に家を出た
母さんは少し心配性だけど、正直言ってないだけで実はたまに何もないところで躓く
母さんに見送られて玄関を出ると、生暖かい風が俺の前髪を揺らした
今日は痴漢になんて遭わないぞ!
次痴漢に遭ったら俺の手でぶっとばしてやるんだ!
そんな風に意気込みながらバス停までの道のりを歩く
ふんふんと鼻息を荒くして気合いを入れていると道行く人にくすりと笑われてしまい少し顔が赤くなる
最寄駅行きのバスに乗り込む
バスは少し混み合っていて、昨日の痴漢された光景を思い出した
それでも痴漢に遭うことなんてなく、ほっとため息をつく
そりゃそうだよな
こんなどこにでもいる普通の男子高校生が毎日痴漢に遭ってたまるもんか
と、言いたい所だがまだ昨日の不安が拭いきれたわけではなかった
俺は駅前のバス停でバスを降り、そのまま地下鉄のホームへ向かった
ホームへ向かう道中、昨日の光景が頭をよぎった
痴漢をされた時、真っ先に気付いて俺に声をかけ助けてくれたアキの姿
昨日はアキと同じ電車だったな…
もしかしてアキも、同じ駅から乗ってたりするのかな
今日は、会えるかな………
なんて、ほやほやとアキの爽やかな笑顔が浮かぶ
はっ…俺は何を考えてんだ
会えるかなって学校に行けば会えるだろうし、何か期待するようなことなんてなにもないし!
ぶんぶんっと頭を左右に振り、アキの顔を脳内から消し去る
だけどやっぱり俺の頭には昨日出会ったばかりの優しい笑顔が再び浮かんできた
それにアキが俺を抱きしめた背中や腰や首筋に、まだ手の感触が残ってるような気がしてくる
な、なんなんだよもう……………
自分の思考に若干違和感を覚えつつも、俺はもう一度ぶんぶんっと首を振ってその後右手で自分の頰を軽く叩いた
よし、もう変なこと考えるのはやめだ
アキに対してもし何かを抱いているのだとしたらそれは憧れだ
それ以外なんてない、絶対に
「翔!」
すると不意に俺を呼ぶ声がした
その声はきっと今の俺の中で一番印象に残っている声
低いのに爽やかで、はつらつとしたイケメンボイス
「翔、おはよう!!」
くるりと振り返って声の主を確認すると、小走りで俺に近付いて来たのはやはりさっきまで俺の頭の中にいたアキこと広崎輝だった
走っていても崩れぬその顔、見事たるイケメンぶり
「お、おはよ…」
キラッキラの笑顔で俺に駆け寄ったアキに肩を震わせながら俺も挨拶を返す
アキはニコニコと笑いながら俺の前で立ち止まる
「翔もこの駅からなんだ!」
「う、うん、アキも…?」
「おう!一緒だな!」
アキはキラキラと輝く瞳を細める
朝からその爽やかな笑顔が繰り出せるなんて、朝は機嫌が悪い俺としては羨ましい限りだ
きっと心の根っこの部分から明るくていいやつなんだろう
心の中でそう思いながら俺はチラッとアキの顔を見上げてみる
するとアキも俺を見ていたのか、たまたまアキの目線と俺の目線が重なった
「!!」
驚いた俺は思わず顔を背けてしまう
や、やべ〜〜〜目合っちゃったし!思いっきり逸らしてしまったし、感じ悪かったかな…
い、いやでも昨日の今日だし、昨日色々あったんだし意識してるのもおかしくはない、のか??
脳内の俺がバタバタと駆け回って暴れる
むしろ同じ男相手なのに目が合っただけで動揺する俺も俺だが、これは致し方ないと思う
「翔?どうかしたのか?顔赤いぞ?」
「ふぇっ!?」
アキが少し背中を丸めて顔を覗き込んで来た
目の前にはシャープな鼻筋とキラキラの瞳
思わず間抜けな声が口を飛び出す
ち、近いっ!!
「い、いいいいいや!?なんでもないっ!?」
「そうか?ならいいけど…」
あまりにも顔が近くにあったことに気が動転し、まるで舌足らずな子供のように声を絞り出した
アキは心配そうに眉をひそめたけど、またすぐに昨日と同じ笑顔に戻った
『まもなく3番乗り場に列車が到着します』
「お!じゃあ一緒に行くか!」
「う、うん」
登校2日目
俺は学校1の人気者と一緒に登校することになった
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