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内緒の手紙

「おはよー」 「はよ!おっ輝!今日は遅刻しなかったな!」 教室に入るなり教卓のあたりで騒いでいた山本が寄ってきた そしてアキに向かってからかうように肩を小突きへらへら笑う そんな山本の言葉に俺は思わずギクッと肩を震わせる なぜならそれは、昨日のアキの遅刻が俺を痴漢から助けたせいだからだ 「当たり前だろ〜?」 「昨日は女子追い払うの大変だったんだぜ~」 「はは、悪かったよ」 「輝くんおはよぉっ♡」 「うぉおっ!?」 うりうりとアキにくっついている山本とアキとの他愛もない会話を横から眺めていたら、ふわふわのツインテールに濃い目のメイクをした女子が俺を突き飛ばしてアキのところへ飛んでいった 突き飛ばされた俺は尻餅をついてしまう さすが…… 朝から歓迎ムードの王子様は違うなぁ ……………どうせ俺はおまけですよーだ…………………… 「わ!翔!なにやってんの!」 不意に上から高い声がしたかと思うと、俺の頭上にはマスコットがたくさん付いたカラフルなリュックを背負った健が俺を見下ろしていた 「なんでドアの前に座ってるの?」 「あ、おはよ…健」 「おはよ!ほら、引っ張ってあげる!」 「ありがと」 健に腕を引っ張ってもらい俺はゆっくりと立ち上がった 健のカバンに付いた大きな赤いクマのマスコットの大きな瞳に映る自分は、やはり普通だった 「ほら!席ついてー!もうチャイム鳴るから!」 俺が立ち上がったすぐ後に海老名先生が元気よく走って教室に入ってきた 廊下を猛ダッシュする教師、これも都会かぁ……違うか よかった、早いうちに立っといて たぶんあのまま座ってたら海老名先生に蹴っとばされてたな俺…… 「まだチャイム鳴ってねぇよー!」 「もうなるの!さん、に、いち……」 キーンコーンカーンコーン 「ほら鳴った!ほれ、席に着いた着いた」 海老名先生はフフンと得意げな表情をして教卓の後ろへとまわった 「そのため………お〜い名前なんだっけ、転校生〜寝るな〜」 「……ん〜?」 「ん〜じゃないぞ、お前だぞ〜えっ…と高村ぁ」 はっっっっっ!!! 今は3限目、現代文の時間だ 俺はどうやらうたた寝をしていたらしく教科担当の先生…名前が出てこないけど、ともかく先生に起こされた 「おい高村、お前頭カクンカクンしてたぞ」 前の席の山本がくるっと上半身を俺の方に向けて言ってきた 口の端を垂れかかったよだれをごしごしと拭い、小さく笑う山本に渋い目を向ける 「仕方ないだろ…寝不足なの」 「まぁ最初は慣れないよなー、新しい環境って」 「あ、う、うん……」 実は寝不足の俺 だがそれは慣れない環境のせいではない お気に入りの枕もちゃんと持ってきたし、むしろ初日からぐっすり眠れている 俺の寝不足の理由は、バイトに遅刻した姉の八つ当たりとバイト中に起こった迷惑な客のセクハラに対する愚痴を聞いていたからである 周りは赤くなる俺を見てクスクスと笑っている 教室の真ん中に目を向けると、他のみんなと一緒にアキも笑っている うっ、アキまで…!! なんだか恥ずかしくなってあわててノートに目を向けた 隣をチラリと見ると相変わらず健がジャンプにマガジンを挟んでしかめっ面で黙読している こいつはいいな…ちっちゃいから前の奴に隠れて見えないし注意されないし 俺のせいで止められた授業はまたすぐに再開された 俺はもう一度教室の真ん中に座るアキを見た アキは頬杖をついて黒板をじっと真剣に眺めている 時々ノートに目を移してその折り曲げた袖から見える太くてたくましい腕をスラスラと動かして板書している するとアキの隣の席のポニーテールの女子が小さな紙切れを渡しているのが見えた あ、なんか渡した…… 手紙かな………… アキはにこやかに微笑んでそれを受け取っていた 隣の女子は嬉しそうな様子で頬を赤く染め、ニコニコ笑って前を向く 教室の真ん中で人知れず起きた些細なやりとりに、俺はなんだか胸がそわっとする なんだかむず痒いような、もやもやするようなよく分からない気分だ その気持ちがどうやって生まれたのかも、それを生んだ原因が何なのかも分からないまま俺は黒板に向き直す 俺がよそ見をしている間にいつの間にか次のページに進んでいたみたいで、俺は慌てて乱雑な字で黒板を板書した

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