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公開告白
この日の昼休みも昨日と同様に健が声を掛けてくれて、健と一緒に過ごした
またお菓子を食べようとするからそれを奪い、少し多めに作ってきた弁当のおかずを分ける
アキも昨日同様チャイムが鳴るなり女子に引っ張られて教室を出て行った
ところが昼休みも中盤に差し掛かった頃……
『2年5組の村瀬健ぅ!!至急教務室まで来いっ!!』
ピンポンパンポーンとアナウンスが鳴るなり聞こえてきたのはいかつい男の人の怒鳴り声
しかも健名指しで
「ひっ」
「健、なんかしたのか…?」
そのアナウンスを聞いた健は怯えたような声を出すと同時に一目散に教室を出て行った
そんな健を目で見送りこてんと首をかしげる俺
「健のやつ、なんかしたの?」
「あ〜この前のテスト、赤点だったのに昨日の放課後補習に出なかったからじゃない…?」
昨日の放課後健と一緒に女子会をしていた女子のひとりに聞いてみたところ、どうやら昨日の放課後は赤点補習だったらしい
………健……………サボったのか………………
はぁ、とため息をつきながら怒られる健の姿を想像する
ちょっとかわいそうなんて思いもしたが、よくよく考えれば補習に出なかった健が悪い
そう思うと同情するに出来なくて、結局俺はまた弁当をつつく
「あ〜あ、生徒指導の牛島先生だよ…健くんしばらく帰ってこれないかもね」
「そんなに怖いのか…」
「うちの学校で一番怖いと思うよ…」
近くで怯える女子たちの声を聞いていると、なんだか俺もブルブルっと身震いがした
赤点取らないように頑張ろうと切実に思った
「おいおいおい!あれ見てみろよ!!」
「うわ!まじかよー!」
「すっげー!!」
健が教室を出て行ったのもつかの間、今度は教室の窓から首を出しながら男子が騒ぎ始めている
男子のひとりが指さした方向を、みんなが興味津々で眺めている
なんだろう…
俺もその声につられて椅子に座ったまま窓から顔を出した
窓にはクラス中の生徒が集まって、校庭を見下ろしている
しかもこのクラスだけじゃない、他のクラスも同じような状態になっていた
校庭を見ると大勢の女子が円を作っている
その中心には黒髪の男子生徒とポニーテールの女子生徒がいた
あれ…?あの子このクラスの……
「やべーよ!輝が公開告白されてんぞ!!」
え………………
輝って…
女子の輪の中心にいたのはアキと、授業中にアキに手紙を渡していたポニーテールの女子だった
隣にいた山本に伺うと、どうやら大勢の前で公開告白が行われるようだ
「あたし、輝くんのことが好きなの!!」
ポニーテールの女子が顔を真っ赤にして大声で言った
3階にある教室にまで届く甲高い緊張したような声だ
その言葉を聞くなり校庭で円を作る女子はキャーとわめき、窓から顔を出す男子はフゥーと野次を飛ばす
「あ、あたしとつきあってほしいの!!」
その瞬間校舎がぐわっと揺れるくらい女子のわめき声と男子の歓声が湧き上がる
教室どころか学校中の熱量が一気に上がって、ぐわんと空気が揺れるような感覚が俺の体を伝う
なんだか目の前がゆらゆらして頭が痛い
なんだろう
この感じ
なんだか胸がズキズキするような
もやもやするような変な感じだ
昨日からこんなことばかりだ、胸がどきどきしたりムズムズしたり、なんだかチクリと痛くなったりホッとしたり
自分の感情なはずなのに、自分でコントロールができなくて起伏が激しくなるんだ
俺は窓から出した顔を引っ込めて、机に突っ伏した
何故かは分からないけど、この後の光景を見たくないと思った
しばらくしてアキが教室に戻って来るとクラス中の生徒がアキを取り囲んだ
「なんて返事したんだよ!」
「聞こえなかったんだけど!!」
「オッケーしたの!?」
俺は少し顔を上げてクラスメイトの声を盗み聞きする
どうやらあの後のアキの返事は周りには聞こえなかったらしい
「い、いや、考えさせてって言ったよ」
困ったように眉を下げたアキは控えめにそう言った
周りの男子は騒ぎ出し、一部の女子はほっとしたような顔をする
オッケーはして、ないんだ………
俺はそのままボスン、と腕に顔を埋めて突っ伏した
「高村ぁ、高村ってばー、おきろよぉ」
「………ん……ん〜?」
「ん〜じゃないって早く立てって」
はっっっっっ!!
俺は慌てて立ち上がる
クラスのみんなはもう立っていて、俺を見ながらクスクスと笑っている
この光景、さっきも見たぞ……
どうやら今は4限目のチャイムが鳴って、始業の挨拶をするとこみたいだった
「気をつけ、礼」
「お願いしまぁ〜す」
なんとかみんなに合わせて礼をして席に座る
俺、寝てたのか………
結局アキはどう返事するんだろう
アキはオッケーするのかな
あんな告白されたら誰だってオッケーしちゃうよな
それにあんなにカッコいいアキに彼女がいないだなんて、よくよく考えればおかしな話だ
考えないでおこうって思うのに、そのことで頭がいっぱいになる
ま、アキに彼女ができようができまいが俺には関係ないけど………
放課後
終礼が終わり、俺はだらだらとカバンに荷物を詰めていた
結局午後の授業はノートも取らずに、ただボーっとしているだけだった
……さすがにノート書いてないのはまずいよな
と思いつつ、今日はあまり手を動かす気にも頭を使う気にもなれなかったからノートは今度誰かに見せてもらおう
カバンに荷物を詰め終わり、カバンを肩にかけて教室を出ようとした瞬間
「翔!!」
誰かが俺の名前を呼んだ
その声は今このクラスで俺が記憶している人間の中で最も印象深い低くて爽やかな声
声のした方に顔を向けると、そこには今日も注目の的だったアキだった
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