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約束
「………………」
「………………」
俺は今、朝アキと2人で並んで歩いた道を再び歩いている
少しずつ沈んでいく夕日を背に歩くと、俺たちの影がぐんと背を伸ばす
俺もアキも黙り込んだまま、ゆっくりと歩くだけ
俺が帰る支度をしている時にアキに呼び止められ、一緒に帰ろうと誘われた
なんだか昼休みの光景を見てしまったせいで一方的に気まずい感じがして断ろうと思ったけど、いい言い訳が思いつかなかった
それにここでアキを理由もなく拒むのは、友達としてできなかった
だって俺はアキに対して対等な扱いをするって決めたんだから
だけどアキもなんだか気まずいようで、いつものようにたくさん話さない
いつもより下を向いて、影を眺めながら歩いている様子だ
「今日の昼休みの、見たか…?」
するとアキが急に顔を上げ、控えめに俺の方を見つめて尋ねてきた
気にしていないふりをしていたけど、本当は気になっていた
だけど友達2日目の俺が聞いていいようなことじゃないし、そこまで踏み込まれるとさすがのアキも迷惑だと思って自分からは聞けなかった
それをアキ本人から切り出してくるなんて…
「う、うん…見た、けど……」
「だよな、ハハ、すごいよな、中島も」
俺の歯切れの悪い返事にアキはまたいつもみたいに困ったように眉をハの字にして笑ってみせる
中島ってのは今日アキに告白したポニーテールの女子の名前のようだ
アキがなんて返事をしたのかは知ってる
この先中島さんにどう返事をするのか、気になるには気になる
けど、聞きたくないって気持ちもどこかあるように思う
「オレさ、あの時は考えさせてって言ったけど、断るつもりなんだ」
自分の気持ちにもやもやとしていると、不意にアキがそう言った
なんだかびっくりしてアキの方を見ると、また困ったように笑っている
「な、なんで断るんだ?」
なんで俺はこんなことを聞いたんだろう
アキがなんて返事をするかなんて俺には関係ないって思ってたはずなのに
なのになんだかホッとしてるような、自分でもよくわからない変な気持ちが俺の心をかきむしる
「う〜ん、なんでって言われてもな…」
「ご、ごめん……」
「単純に恋愛対象じゃなくてさ、友達以上にはなれないなって思ったんだ」
アキは夕陽を見上げながら、今度は清々しいような顔で言葉を紡ぐ
その瞳は夕焼けの光を帯びて、キラキラと光っていた
「そっ、か……」
「うん、オレ、付き合うなら好きなやつとって決めたんだ」
好きな、やつ、か……
アキにもいるのかな、好きな人
アキが好きになるってどんな人なんだろう
きっとスタイルがよくてかわいくて、いい匂いのする美人なんだろうなあ
なんだか心臓のあたりがズキ、と痛んだ気がした
「なぁ翔、これからもこうやって一緒に帰ろうな」
俺が勝手にアキの好きな人の姿を想像していると、急にそんなことを言われて思考が固まった
大したことじゃないはずなのに、何故だかビックリして目をまん丸に開いたまま固まってしまう
「アキは、俺なんかでいい、のか…?」
「なんかってなんだよ!オレは翔がいいって言ったんだぜ?」
「う……」
自身なさげに答える俺に、アキはからかうように無邪気に笑って言う
「翔がいい」って言葉が俺の中で何度も響き渡る
「オレじゃ嫌か…?」
「……………嫌じゃ、ない……けど…」
「じゃあ決まりな!!」
そう言ってアキはいつものようにニッコリと笑った
笑うとくしゃっとなって笑い皺が多いのが可愛いな、なんて思った
このやりとり、今朝もした気がする
けどこうやってアキと確かめ合うような会話ってなんだか安心する
あぁ、人気者の登下校は俺の時間なんだーって思って沈んでいた気持ちがだんだんと元の形に戻っていく
あれ…なんだろう、この気持ち……………
そのあとは歩き始めた時とは打って変わって、他愛もない話で盛り上がった
まだこの学校に来て2日しか経ってないけど、アキとはかなり打ち解けられたと俺は思う
まぁ、アキがどう思ってるかは分からないけど……
そのまま2人で地下鉄に乗り、今朝よりは人の少ない電車で5駅乗り継いだ
揺れる車内は今朝みたいに騒々しくなくて話せば丸聞こえになりそうな会話が恥ずかしく感じたから途中から2人揃って黙っていた
電車を降りて改札口を出ると、外は薄暗くなっていた
「オレ、こっからチャリだから!」
「あ、そっか、じゃあな」
アキは自転車らしいから、アキとはここでお別れ
アキがぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でる
「おう、また明日の朝、ここでな」
そう言ってアキは俺に笑顔で手を振って歩いて行った
俺もぐしゃぐしゃに乱された髪を整えながらアキに手を振りアキとは反対方向に歩く
ま、また明日だって……
やばい、俺女子だったら絶対アキに惚れてたぞ
よく分からないけどすごく嬉しかった
帰るときに話していて、アキは部活をしていないということが分かった
意外だと思い尋ねると、中学のころ野球で肩を壊したとかで高校では野球をしなくなったらしい
やっぱ大変なんだなー…スポーツするのは
他にも一人暮らしをしてるだとか、年の離れた兄と弟がいるとか、色々と話してくれた
俺も愛知の学校のこととか、幼馴染のことを話した
姉ちゃんのことを話すのは何故だか勇気が必要で言わなかったけど……
こんなに長く2人で話したのは初めてかもしれない
ってまぁまだ転校してきて2日だから当たり前かもしれないが
アキはすごく気さくで優しくて、それでいてすごくカッコよくて、だからアキの周りには人が集まるんだなって思った
この日はアキのことで頭がいっぱいだった
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