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人気者の心の中
公開告白だなんて、正直な話迷惑だって思った
現代文の授業中に隣の席の中島から手紙を渡されてた
そこには「昼休みに話したいことがあるから一緒に来てほしい」と書いてあった
いつもいつも、オレの昼休みは女子に連れられて食堂や中庭に行く
最初のころはそれを拒否して男友達と過ごしていたら、オレと仲の良かった山本や健たちが違うクラスの女子から反感を買うようになった
そこからオレは、女子たちの要求を断らずにできるだけ好きにさせた
こんなことが原因でオレの友達が反感を買うくらいだったら、オレが我慢する方がよっぽどマシだった
そして今日の昼休み、オレは中島に言われた通り中島についていった
たどり着いた場所は校庭
異様な雰囲気を感じ取ったのか、わらわらと人が集まってくる
それでも中島は構う様子もなく、野次馬が見つめる中でオレに告白をした
もちろんオレを好いてくれているのはありがたいことだ
だけどこういうのは違う気がする
オレはみんなからの注目を集めたいわけじゃない
むしろ逆で、もっと普通に生活したいって思ってる
だけどこういう行為が、オレから普通を奪って持ち去っていく
目の前で顔を赤くしている中島を見る
だけど恋愛対象だなんて思えなくて、そのまま目を逸らす
オレの答えは決まっていた
だけど今ここで返事をするにはあまりにも野次馬が多いから、保留にさせてもらった
1年のころは断るのも面倒だと投げ出していた時期もあり、特別悪い印象のない女子とは適当に付き合ったりした
だけどやっぱり好きになんてなれなくて、すぐに別れてしまうのがいつものことで、オレ自身それを何とも思っちゃいなかった
だけど最近、妙に気持ちがくすぐられることがある
原因は全く分からないけど、翔が転校してきてからだ
転校生の翔は思っていた以上に優しいやつで、オレを対等に扱ってくれた
オレに「普通」を与えてくれた
友達と笑いあって登下校することが、オレにとっては何より嬉しい普通の日常だった
そんな翔といると、気持ちが落ち着くと同時になんだかざわざわと胸騒ぎがするようになった
それがどんな感情なのかは分からないが、今までいい加減にしていた自分の生活を取り戻したいと感じるようになった
今日の下校も翔を誘った
オレが声をかけると翔は一瞬焦ったような表情をした
だけどうん、と頷いてくれた
翔との下校中、なんだか気まずい雰囲気になった
それは多分昼間のことを翔にも見られたと確信しているからだと思うし、翔もそれを見たからだと思う
「今日の昼休みの、見たか…?」
お互いに一言目をうまく吐き出せなくてやきもきしていたが、思い切ってオレから話してみることにした
翔はこんな話されても困るかもしれないが、何故か翔には知っていてほしいと感じているのだ
顔を上げ翔の方を向くと目を大きく開いて驚いているようだった
「う、うん…見たけど……」
「だよな、ハハ、すごいよな、中島も」
そう言ってはにかんで見せる
翔は戸惑ったような様子を見せながらも、オレに合わせてわざわざ苦笑いをしてくれる
「オレさ、あの時は考えさせてって言ったけど、断るつもりなんだ」
そう言うと、翔はまたビックリしたように目を丸くした
何故こんなこと翔に言ったんだろう
翔からしたってこんなこと、他人の事であってどうでもいいことなのに
ましてこんなこと言われたってどんな風に反応したらいいのか分からず戸惑わせてしまうと分かっているのに
なのに翔に対してこんなカッコつけたような言葉を言ったのは、きっとオレが翔に誤解されたくないからだ
せっかくできた優しい友達に、軽いやつだなんて思われたくないからなんだ、きっと
「な、なんで断るんだ?」
「う~ん、なんでって言われてもな…」
「ご、ごめん……」
「単純に恋愛対象じゃなくてさ、友達以上にはなれないって思ったんだ」
こんなの嘘だ
今までは相手が恋愛対象じゃなくても適当に付き合っていた
それなのに翔相手になると綺麗ごとみたいな言葉がオレを飾っていく
「オレ、付き合うなら好きなやつとって決めたんだ」
また、カッコつけた嘘をつく
だけどこれはある意味嘘じゃない
オレは「決めてんだ」ではなく
「決めたんだ」とあえて言った
今までは付き合うなら好きなやつと、だなんて思いもしなかった
だけど今のオレは付き合うなら好きなやつと付き合いたいって思っている
だからこれはオレの決意のようなもので、
だからあえて「決めた」という言葉を選んだ
なんだか屁理屈みたいだが、本心だ
ふと翔の方を見る
俯きがちな翔は影を見つめながらゆっくりとした足取りで歩いている
すっきりした横顔が何故だか綺麗に見えて、少しだけ見とれてしまったなんて言えない
「なぁ翔、これからもこうやって一緒に帰ろうな」
「綺麗だなあ」という言葉を飲みこんだ変わりにいつの間にか零れた言葉
オレのそんな言葉に翔はまた目を丸くして驚いている
本当、翔は思ったことが顔に出るから分かりやすくていい
その後翔は俺なんかでいいの?なんて自信なさげに聞いてきた
だけど翔なんか、じゃなくて翔がよかった
それを試しに素直に伝えると、顔を赤くして頷いてくれた
それがどれだけ嬉しかったか、きっと翔には分かりっこないだろうな
それからは昨日のように他愛もない会話をしながら帰宅した
オレは中学時時代の部活の話やケガの話もした
翔はオレの面白くなんかない話も真剣に聞いてくれて、たくさん相槌を打ってくれた
他にも翔の地元や幼馴染の話も聞けて、昨日より仲良くなれた気がした
この日は眠るまで、翔のことが忘れられなかった
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