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二度目の保健室※

「高村こっち!パス!」 「はっ!はいっ!」 「うおっと、」 「あ、ご、ごめんっ」 バスケットボールの試合 対戦相手は隣のクラスのチームで、アキくらい背が高いバスケ部の男子がいる そいつにボールを取られまいと山本に向かってボールをパスするも、少しずれてしまいなんとかフォローしてもらう そのままダンダンとドリブルしてゴールを決め、うちのチームが一歩リードする 本当バスケって苦手だ………… あんな硬いボール、怖くて上手に受け取れもしない 「次は決めるぞーっ」 「おーっ!」 隣のクラスのバスケ部男子が士気を高めると、チームメイトもそれに続く 負けじとうちのチームも気合を入れ、試合が再開される 「高村っ!こっち!」 「へぁっ!?」 「はは、おもしれー投げ方っ!」 「うぅ……」 またボールをパスすると、今度は上手くチームメイトの所へ飛ぶも何だかヘンテコな投げ方をしてしまう それに加えて間抜けな声まで 恥ずかしくてコートの外に顔を向ける すると視線の先にはクラスメイトに囲まれて座っているアキの姿 アキは笑顔で試合を観戦して、時折隣のやつに何かを話しているようだった 「!」 するとまた、アキと視線が重なる 今度は俺が視線を外す暇もなく、にっこりと笑顔を向けられる ま、また…………! なんか目が会うたびにあんな風に笑顔を向けられてちゃ身が持たないし、むしろ知り合い全員にそんなことしていたらアキの方が疲れそうだ そう思いながら俯くと、靴紐が解けていることに気付きしゃがんで結び直そうとした時だった 「あっ!高村っ!」 「へっ?」 バコンッ!! 俺目掛けて飛んできたボールが俺を襲う とっさに顔を手でガードし顔面は死守したものの、左手の小指あたりには鈍い痛みが走る 「だっ、大丈夫かよっ!」 「ごめんっ!高村っ!」 一時中断された試合 しゃがんで左手を押さえる俺の周りにわらわらと人が集まってくる いっ、て〜〜〜〜〜〜〜〜! やっぱりこうなると思ったんだ バスケットボール、硬くて怖いし そもそも試合中によそ見をしていた俺が悪いんだけど… 「だ、大丈夫大丈夫」 「でも血も出てるぜ?」 「保健室行った方がいいって!」 「い、いや、このくらい平気だって」 心配をかけまいと笑って首を振る 本当は結構痛いけど、まだ試合の途中だしあともう少しで授業も終わるし少し我慢すればいい 「だめ、保健室行こう、な?」 立ち上がって試合を続けようとしたその時 コートの外にいたはずのアキが、いつの間にか目の前で膝をついて俺の手を優しく掴んでいた 「へっ……」 「オレ連れてくから、みんな試合続けてて」 「い、いやっ……このくらい平気だって…」 「だめだって、放っとくともっと痛くなるだろ?」 そう言ってアキは俺の返答も待たずに俺の手を引き始めてしまう 俺は抵抗することも手を払うこともできずに、結局この間みたいにアキに引かれて体育館を出た 保健室に辿り着くと、扉の前には 『外出中、ご用の方はお好きにどうぞ♡』と書かれた小さなホワイトボードがぶら下げられている アキは気にすることなく扉を開けると、この間の窓際のベッドに俺を導いて座らせる そのまま慣れた手つきで棚を開け水色の氷嚢を取り出すと、冷蔵庫から氷を取り出し水を入れて氷水を作る 何も言えなくて俺は黙ったままアキを控えめに眺めるしかできない 「ほら、手見せて」 「う、うん……………」 アキが氷嚢とタオルを持って俺の目の前に向かい、それを置いて手を差し出す その大きな手にお手をするように怪我を負った左手を乗せると、刺激を与えないように優しく触れられる アキの温かい手は、痛いはずの左手を痛みも感じさせないほどに優しく触れてくれる そんな温もりと優しさに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる 「アキ…あの、ごめん………」 「ん?なんで謝るんだよ」 「こんなことまでしてもらって、迷惑かけてばっかで…」 何だか俺、アキに迷惑かけてばっかりだ…… 素直に謝ると、アキは首をかしげる そんなアキの顔を控えめに覗き見ると、また目が合ってしまってばつが悪くなる 「ふふ、いーの、オレが来たかっただけ」 「え…?」 「オレもちょっと疲れたしさ、少しだけ2人でサボって休憩しちゃおうぜ」 そう言うとアキはへへ、といたずらに笑う 大人っぽいアキの子供みたいな表情に、俺の胸はまたどきどきと鼓動を速めていった

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