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事故チュー

へっ…ちょっとまって…… 頭が追いつかないんだけど、これっ、て…… 「!!」 唇に生暖かい何かが触れる感触 ふにゅっとしてて、柔らかい 俺、アキとキス…してる…………!? 俺の視界はアキの体でほぼ覆われ景色も何も見えないが、ガタンと揺れる感覚からして電車が次の駅に向かって動き出したようだ 慌てて唇を離す 俺の背にある扉にコツンと頭をぶつけてしまう お、俺っ、ファーストキスなんだけど………! はじめて他人の唇に、自分の唇が触れた 不覚にも事故により初体験を味わったそ自分の唇にちょこんと触れると、熱がこもってビリビリ痺れているみたいな感覚を感じる 依然として俺の体はまるごとアキの背中に覆われ、他に乗っている人の顔すらまともに見えない 見上げると、視界に入るのは俺の上にあるやたらと整った顔面ただひとつ アキは俺の両側を囲うように扉に手をついて、目を泳がせる そして唇をぎゅっと噛み締めると、どうしたらいいのか分からないような困った顔をする や、やばいっ…………! 事故とは言え、学校1の人気者とキスしてしまった 「っご、ごめ…おれっ、」 「い、いや、オレこそ…、その……」 とっさに口から不恰好な謝罪が飛び出る アキもそれにつられたのか相変わらず目を泳がせて言葉を絞り出す 身体中を血液が巡って、じわじわと確実に体温を上昇させる どくんどくん、と心臓の音が響く アキの身体で密室みたいに覆われた俺には、自分の心臓の音が変なくらいによく聞こえてくる 血液が巡ったせいなのか、脳みそまで活発に働き始める どっ、どうしようっ………! 俺のファーストキスっ、いや、これは事故だし相手は男だから1回目には数えなくてもいいんじゃないだろうか そ、そもそもアキだって俺との事故チューなんて嫌だったはずだ! ああどうしよう そう思考が巡る間も、どんどん俺の鼓動の音が速く大きくなっていく たらり、と首筋を流れる汗がシャツに潜り込んで熱く火照った体を伝う うわあもう訳わかんなくなってきた!! 次の言葉を、どう紡いでいいか分からない 何と言うのが正しいのか、どうするのが一番いいのか分からない だけどやっぱり、事故だとしても謝らなきゃだよな こんなの男同士なんだし、笑い話になるだけなんだから変に気にしたりすることなんてないはずだ きっと悪い悪いって冗談っぽく謝ればそれこそ面白く終わってくれるはず そう結論付けた俺は、もう一度アキへと謝罪の言葉を述べるべく口を開いた その瞬間 「ア…「うぉっ、!」…んぅっ!」 電車の揺れでアキの背中を誰かが押したのか、アキがバランスを崩し俺の方によろけて再び俺とアキの唇が深く重なった 今度ははっきり分かった さっきよりも深く、お互いの唇が触れ合っている感触 「んぅっう、ア、アキっ…!」 やっ、やばいっっ……………! こんなの…だめだって…………っ!! 「っはぁ、はあっ……」 どうにか強引に顔を引き離す お互いに息が上がり、肩で呼吸する 唇が焼けそうなくらい熱い 指で触れたら多分溶けてなくなってしまうんじゃないかってくらいに熱く熱が籠る 意思に反して瞳に涙が浮かんでくる 息が苦しくて必死に酸素を取り込もうとするけど、この人混みと動揺のせいか思うように息もできない ど、どうしよ…っ、俺……っ 2回もしちゃった……っ こんなの、もう笑って誤魔化せるか分からない 俺の気持ち的に どうしていいのか分からずアキを見上げた これ以上色々起こると、溢れないように我慢した涙は俺の意思を無視して頬を伝うだろう アキに視線を向けると片手で口元を隠すように覆っている 耳は真っ赤に染まり肩で息をしている 嫌、だったよな……男となんて…… やばい…謝んなきゃ………っ 「ア、アキ…ごめ、俺…あの、謝るから…っ」 思わず気持ちが高ぶって大きな声を出しそうになる それを周りの人に聞こえないように、アキの腕の中でだけ聞こえるくらいの声に抑えて必死に言葉を絞り出す 「や、だったよな…?お、俺、あの…」 アキの瞳を見つめるといつもは優しいあの瞳はない 鋭く尖ったように光り俺をじっと見つめる 見たこともないその瞳に、思わず体がビクッと震える 「翔」 俺の言葉を覆うようにアキが俺の名前を呼んだ 普段の明るくて爽やかな人物とは思えないほどに低い声が俺の体を芯から揺らす お、怒ってる………! 「ごめん、っ、おれ、俺っ…」 怖くなって必死になって謝る またじんわりと涙が溢れてくる もういつ雫が落ちてもおかしくないくらいに怖くて、まともにアキの顔を見ることもできない あの優しいアキを怒らせたんだ… たしかに俺とのキ、キスなんか嫌に決まってるし、気持ち悪いと思ってるはず…… アキみたいなかっこいい人が俺みたいな凡人な男と…… 俺、どうしたら…………っ 「翔」 動揺して頭もまともに働かなくなる 瞳をきょろきょろと泳がせ視線をどこに置いたら良いのかも定かでない するとそんな俺の名前をアキがもう一度呼ぶ 恐る恐る顔を上げると、俺の頬にアキのゴツゴツした手が触れる アキの大きな手は火傷しそうなくらいに熱い な、殴られる……っ!? ギュッと目を瞑って覚悟を決めたその時 「これも事故な」

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