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輝の本音

やってしまった……… なんてことしてんだオレ…… 翔がオレを振り払って地下鉄から出て行ったあと、オレは自分のした事を思い出して落胆する オレ最悪だ… 事故だなんて言ってあんなに強引なキスをして キスって無理やりするもんなんかじゃないのに、無理やりされそうになって嫌な思いをしたことだってあるのに それなのにオレは… 改札を抜ける前に一気に力が抜けて、その場にぽつんと立ち止まってしまう 歩みを進められる気がしなくてぐっとその場で下を向く 正直なことを言うと、翔があんなでっかい瞳で上目遣いして、しかも涙目でオレを見つめてきたのに心底興奮した 男相手で、しかも出会って2週間なのも分かっているはずなのに妙に色っぽく感じて 自分の理性が煽られた結果だった 男は女の涙に弱いなんて言うけど、オレの場合それに当てはまるのはきっと翔だ 翔と初めて出会ったあの痴漢の時だって、涙目になって痴漢に耐える翔になにか普通じゃない感情を抱いていたのかもしれない いや、むしろ涙なんて関係なしにオレは翔を…… 自覚していなかった気持ちが、だんだんと鮮明になっていくのが分かる 今の自分の中にどんな感情があるのか どんな気持ちなのか それがはっきりと証明される うすうす感じてはいたけど今日、この場で確信した オレは翔が好きだ はじめて会った時から はじめて喋った時から はじめてあの涙を見た時から あの時からオレは、人知れず翔に心を奪われていたんだ はじめて見たときからすごく綺麗なやつだと思ってはいた 線が細くて真っ白で ほんのりと赤く染まった頬が柔らかそうで 大きな瞳から流れる涙の粒は大きくて そんな第一印象があって はじめて喋って、はじめて触れてそれがもっとオレの気持ちに拍車をかけたんだと感じる あの控えめに笑う顔も 授業中の寝ぼけた顔も すぐに泣いてしまうところも 人を気遣う優しさも 勇気を出して嫌じゃないと言ってくれたことも 思ったことがすぐに顔に出るところも 目が合うと恥ずかしそうに俯く姿も ちょっとネガティブなところも あの柔らかくてふわふわした唇も 全てに愛しさを感じた 翔が転校してきた日、オレが甘えて翔を抱きしめたことがあった きっとその時には既に自覚のない何かがオレの中にあって、普段は友達相手にだってしないスキンシップをした 本当は、立ち上がろうと思えば自分で立ち上がれた ほんの少しだけ、腕に力を込めて翔の手を引っ張った あんな風に同性の体を抱きしめたのははじめてだ いや、同性どころか付き合っていた彼女にだってあんな風に抱きしめたことなんてなかった ずっと、煩わしかった そういう目でしかオレのことを見ないやつも 男友達にまで敵意を向けるやつも 変に媚び売ってオレから自由を奪うやつも オレを普通から遠ざけていくやつも だけど翔は、そんな俺に「普通」をくれた 翔のためなら「自由」も手に入れられるんじゃないかと思った 正直こんなに惚れっぽいタイプではなかった むしろ誰かを好きになったことなんてほとんどなくて、相手からのアプローチを受け流すように適当に相手にするばかりだった 断ったら死ぬから、なんて言われたこともある 正直彼女は休み無くいた 手当たり次第に付き合ってばかりいたし、体の関係だってなかったわけじゃない けど違う オレが翔を好きなんだ 今までにない感情 自分から誰かを好きになるなんてはじめてだ それがまさかオレと同じ男で、しかも出会って2週間のやつだなんて いやきっと、2週間どころかはじめて会ったその日から… 今まで経験したことの無い感情ばかりが膨れ上がっていく 頭を抱えながら重たい脚を引きずって改札を抜ける 電車を降りても、改札を抜けて外に出ても、あの柔らかい唇や熱い舌の感触が消えない むしろ消したくなんてない だけどオレのさっきのやり方はよくなかった 嫌がる相手に無理やりだなんて、あっていいわけがないのに 自分の欲を抑えられなくなっていた 謝らないと…… 自分の行いを悔いてちゃんと謝らないと このモヤモヤした気持ちを晴らさないと、じゃないと前に進めない オレは前に進みたい どんなに翔に嫌われても、この気持ちを大事にしたい 男だからとかそんなことどうでもいい 好きになっちまったんだ この気持ちは、オレにとってはじめて生まれた大切な気持ちだ 捨てたくない 気のせいなんかじゃない 今オレがするべきことは、こんなとこでうだうだ悩んでることじゃない 少しでも早く翔に謝ること 翔を傷付けてしまったんだから当たり前だ 自分の気持ちに確信を持ったオレは、前を向いて歩き出した

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