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修羅場?
俺は教室を出て廊下をずんずんと歩く
と言っても別にどこか行くあてがあるわけではないから、どこか目的地に向かってるというわけでは無いが
ああ腹立つ!マジでムカついてきた!!
アキなんか、背負い投げしてやる!
「お!5組の転校生くんじゃ〜ん!」
「何してんの〜?」
「何!!」
転校生の俺に逃げ場所なんてなくてうろちょろしていると、
一昨日くらいに話しかけてきた隣のクラスのチャラチャラした奴に声を掛けられたけど愛想なく怒り半分で即答してそのまま歩き続ける
ごめん、八つ当たりしちゃったわ……
「超機嫌わるいぜ、大丈夫か?あいつ」
機嫌わるくて悪かったな!
でもこれは君たちもご存知学校1の人気者、広崎輝のせいだからな
ここ最重要事項だ
なんて口が裂けても言えるわけはなく、俺は無視してそのままずんずんと歩き続けた
何気なく校舎から出て、校庭に向かった
今朝の雨はすっかり上がりカラッと晴れ空気が澄んでいる
消えかかった虹の跡もかすかに見える
青空の下を歩けば、少しくらいは気持ちが晴れるかもしれないと思った
本当はこんなことで怒りに呑まれる自分なんてダサくてカッコ悪くて嫌だと思っている
だがそんなのも束の間
校舎裏の自動販売機に着いたところで、見たことのある集団を見つけた
いつもアキを取り囲んでいるあの女子軍団
この間健に教えてもらったんだが、あれはどうやらアキのファンクラブの主要メンバーらしい
へーへーイケメンはさぞ人生が楽しいでしょうね
自分の何がいいんだなんて謙遜していたけど、本当は満更でもないくせに
アキなんて女の子選び放題で人生イージーモードに決まってるんだ
どうせなら女子に囲まれてヘラヘラニヤニヤしているアキのアホ面を拝んでやろうと思って、女子たちにバレないように近付いて足を止めた
さぁ、女ったらしのアキは何を話しているんだか……
半分憂さ晴らしのような気持ちで俺が耳を傾けると
「いい加減にしてくれないか?」
あれ………………………………??
「どうしてこんなにオレを縛るんだ?」
この声……………
「お前らには申し訳ないけど、すげぇ迷惑なんだ」
アキの声?
もう一度耳を澄ますも、この低いのに爽やかな感じの男っぽい声の持ち主は明らかに広崎輝のものだ
怒鳴り声、というわけではないがいつもみたいなあの優しい口調ではない
「えぇ〜、輝くんこわ〜い♡」
「そんなに怒んないでよぉ」
「ほらココ、こっちおいでよぉ♡」
猫なで声でアキをなだめる女子の声がいくつも聞こえてくる
でもそんな女子の声にも反応のないアキの態度に、俺は妙な不安を感じる
出会って2週間の俺が色々知っているわけでもないし、むしろ彼女たちよりもアキとの付き合いは短い
だけどアキがこんな風に冷たい態度を取るなんて
俺の知ってるアキはいつでもにこにこ笑っていたのに
「………もうやめてくれ、話にならない……………」
その言葉を聞いた瞬間、アキを取り囲む女子たちの空気が一瞬にしてピシッと凍りついた
さっきとも違う様子で一言そう呟いたアキ
その雰囲気は今までとは180度違っていて、まるでその場の温度すら感じなくなってしまったみたいだ
女子たちもさすがにやばいと感じたのか、お互いで顔を見合わせている
「通してくれ、オレ、用事があるんだ」
いつもなら胸を擦り付けてアキの腕を掴む女子たちも、立ち尽くしたまま大人しく道を開ける
アキが怒る気持ちも分かる
普通がいいと言っていたアキにとって、彼女たちはそれと逆のことをする存在だ
だけどアキ、お前は「普通」な俺をも遠ざけるつもりなのか?
怒りとは違った妙な気持ちに駆られる
寂しいような、むずむずするような、もやもやするような
アキの気持ちだって理解しているつもりだった、できるだけ普通に接そうと思っていた
なのにそれを普通じゃなくしたのは、アキだ
するとアキがモーゼのように女子の波を割りこちらに歩いてきた
下を向いて表情はうまく読めないが、雰囲気は明らかにいつもと違う
や、やばい……!
こっちに来た!
今アキと会ったって何も言えない
会話をするのは避けたいし、気まずい感じになるのも嫌だ
むしろこのまま二度と…
あんなに怒っていたのに対面して何かを言う勇気はない俺は、アキにバレないようにその場を立ち去ろうと足を上げた
「翔!!」
だが一足遅かったようで、アキはオレを呼び止めた
“翔”と呼ばれたのがあの時のようで、再びオレの中に怒りの感情が蘇るような不審な音がした
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