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アキのバカ!!!

「翔!!」 その場から逃げようとした俺を引き止めるようにアキに名前を呼ばれる 俺はしぶしぶ振り返ってアキの方を見る アキは何とも言えないような面持ちで、俺の方をじっと見つめて近寄ってくる なんだよ さっきまで女子に怒ってたくせに次の標的は俺ってわけ? 冗談じゃないぞ、こんな所で押し負けてたまるか 俺にだってあの姉ちゃんと同じ血が流れてるんだ いつもいつも、キョドってるわけじゃない 「翔!待てって!!」 「なんだよ!!」 くるりと背中を返してアキに背を向ける そしてそのまま進行方向に向かって歩こうとすると、後ろから走って来たアキに二の腕を掴まれる 俺は精一杯アキを睨みつける だがアキの瞳は俺をまっすぐ見つめて離さない 「今朝のこと、オレ、」 「なに?俺忙しいんだけど」 わざとらしく嫌なやつを気取って返す 本当はこんな態度取りたくないけど、仕方ない これ以上男として侮辱されてたまるか 「嫌味でも言いに来たわけ?」 「いや、ちがっ……」 「だったら離せよ」 そう言ってアキの大きな手を振りほどく 俺の力でも振りほどけるくらいに強くは掴まれていないのが、また妙な気遣いを感じて嫌だ 「頼む、話聞いてくれ」 そう言うとアキはもう一度俺の腕を掴む もしかして逆ギレか? 俺のこと散々傷つけておいて今度は逆ギレするつもり!? いよいよ限界が近付いてきた俺は、本能のままに怒鳴ってしまおうと口を開いた時だった 「お前ふざけんn………」 「悪かった!!!」 アキの口から出たのは、俺の予想とは違う言葉だった アキの方を見返すと、いつもは見えないアキのつむじが俺の方を向いている 「今日のことは、忘れてくれていいから!」 忘れてくれていい…? 頭を下げ、下を向いたままアキが放った言葉に俺は言葉が出なかった 下を向き小さく震えるアキの姿に、もうわけが分からなくて唇を噛み締める アキの方をじっと見つめる アキはずっとオレにつむじを向けたまま、ぐっとこらえるようにして俺の返事を待っている 謝ったうえに忘れてくれていいって…… 「どういうことだよ…………」 「今日あったことは、なかった事にして欲しい」 その瞬間、頭の中で何かがブチっと音を立てて切れたような気がした 今まで口に出すのだけはこらえていたのに そんな我慢も苦労ももうどうでもよくなるくらいに、詰まっていた言葉が今か今かと俺の喉を押し開いていく なかった事に……?そんなの…………… 「できるわけないだろ!!」 だだっ広い校舎裏に俺の声が響いた 俺の怒りが頂点に達した 今まで抑えていたものが全て外れた気がした 今の俺に我慢なんかできなかった 「忘れろとかなかったことにしろとか、できるわけないだろ!!」 「し、翔……」 「お前にとっちゃ何回のうちの1回でも、俺にとってははじめてだったのに!」 汚い感情と言葉が次々に溢れ出てくる その感情を隠す事なく大きな声でアキにぶつける アキの様子も顔色も、何もかも確認する余裕なんてこれっぽっちもなかった 「俺の気持ちとか、考えてないのかよ!」 もう自分が何を言いたいのか、何に対してこんなに怒りが収まらないのかわけが分からない だけど俺は悪くないんだ 全部全部、アキが悪いんだ 「俺が何でキレてんのか分かるまでぜっっっったいに許さない!!!!」 「し、翔っ……」 「うるさい!!」 焦ったような戸惑ったような様子のアキ そんなアキに追い打ちをかけるように怒鳴り声を浴びせれば、周りの視線は一気に俺たちに集まる どうしようもなくてポロポロと涙が溢れてくる こっちに越してきてから俺、泣いてばっかりだ 「お前は俺とのキスなんて気持ち悪いかもしれないけど、俺は………!!!」 ここで無意識だった自分の吐いた言葉にハッとする 途端に恥ずかしくなってきてその場からダッシュで逃げようとすると、アキにまた腕を掴まれて引き止められる 「俺は…何………?」 アキの端整な顔がぐっ、と俺に近付く 切れ長い目にまっすぐ見つめられる アキの瞳に見つめられると、朝電車の中で起こった出来事が感触や体温と一緒にフラッシュバックしてくる 思い出したくなんて、ないのに 「うっ、うるさい!!触んな!!!」 ばつが悪くなってアキの胸をドンっと押して離れる その途端俺はアキに背を向けて全力で走り出した 「アキのバカ!!!」 そう捨て台詞を吐いて俺はひたすら走った

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