それから俺はひとりで学校を出た 昨日まではアキを待ってたり、アキに待ってもらったりして必ずふたりで帰っていたけど、今日はひとり けど俺は決めたんだ、もうアキとは帰らない！ それに一緒に登校もしない！ 確かにあの時言い過ぎたことは反省したけど、それでも非があるのはアキの方なんだ ……というか俺は何にそんなにモヤモヤしているんだろう アキにキスされたこと？ それとも忘れろって言われたこと？ 遠くを見ながら歩いているとガードレールにぶつかってしまい慌ててまっすぐ歩きなおす でもどっちにしろ、やっぱりアキが悪いんだ 確かにアキの話も聞かずに暴言ぶつけた俺も悪いけど、9:1くらいの割合でアキが悪いんだ モヤモヤする気持ちに必死にそう言い聞かせながら、俺はとぼとぼと歩いた いつもならアキと並んで歩く道に、今日は俺ひとり なんだかこうやってひとりで歩いていると、この道がすごく寂しく感じる 学校周辺にしては人通りの少ないこの道は、アキが近道だからって教えてくれた道 それにここは、あまり知られていないけど夕日がよく見える絶景のスポットだって、アキが言っていた 近くを同じ制服を着たカップルが通り過ぎていく 仲睦まじげに微笑みあって手をつなぐ彼らを見て、なぜだか知らないうちに胸が締め付けられているような気がするのは気のせいだろうか 人通りが少なくて、絶景の夕日スポット だけどひとりぼっちの俺には、少し寂しすぎる 転校してきて以来、ずっとアキと一緒だったから…… ……ってなに考えてんだ俺は！ 何も寂しくなんかないし、別にひとりだって平気だ！ 大体アキは俺のこと女扱いしすぎなんだ！ 俺が車道の方歩いていたら黙って俺を内側にするし、 地下鉄でなんか俺が痴漢に合わないように守ってくれてるし、 頭めっちゃ撫でてくるし、 それに……あんなキス、してくるし……… アキとこの道を歩いた時の記憶が、どんどん湧き上がってくる アキの中学時代の話や兄弟の話 それに公開告白された時のアキの思いも、全部この道で聞かせてくれた アキが「これからも一緒に帰ろうな」って言ってくれたのも、ここ 笑った時に笑い皺が多くてくしゃっとなるところが可愛いなんて内緒で思ったのも全部、ここだ どれもこれも俺には、忘れがたい記憶だ 転校してきて知らない土地での新しい思い出、そのほとんどがアキとのものばかりなんだ もちろん、キスのことだって……… 忘れようとするなんて、セコいことするなよ…… あんなの忘れられるわけないじゃん…… 気付けよ、バカ 好きだよ 「うっ……ッ、ぅうっ…………、」 ひとりでトボトボと歩く俺の目に、前が見えないくらいの涙が溢れてきた 必死に流れないように堪えたけど、その努力も虚しく俺の頬を冷たく伝う なんで俺、あんなにひどいこと言ったんだろう なんであんなに捻くれた態度でアキを突き離したんだろう なんであの大きな手を乱暴に振り払ったりしたんだろう あのやさしい笑顔が、 何度も大丈夫と言ってくれたあの低い声が、 俺の頭に触れる大きな手が、 あの唇の感触が、 どうしても頭から離れないんだよ 忘れられないんだよ なのに無かったことにしてくれって、 そんなに嫌だった？ アキにとって俺とのキスなんて、忘れてしまって当然？ そうだよな…… あんなに女に囲まれてて、女になんか困ったことないようなやつが男の俺なんて、気持ち悪いだけだよな…… 俺にしたキスも、きっと何かの気まぐれなんだよな？ 長く伸びた影を見つめながら、俺はゆっくりと歩いた 俺ってこんなに脚長かったっけ？ あぁ、いつもは隣にアキがいるから俺が小さく見えたのか 俺の隣ってこんなに広かったっけ？ あぁ、いつもは隣にアキがいるから狭く感じたのか アキを置いてひとりで学校を出たことをすごく後悔した 寂しいよ…………… 誰かを好きになるのに時間なんて関係なかった 恋ってもっと時間をかけて、相手のことをよく知ってから自覚するものだとばかり思っていたのに 俺の中の常識を覆すようにアキのことを想ってしまうんだ はじめて自分の気持ちに気付いたら、こんなにも虚しくてこんなにも寂しくて、こんなにも涙が溢れてくるなんて思っても見なかった 拭いても拭いても涙は一向に止まらない アキのことを思い出すたびに溢れて、俺の目から零れ落ちていく もしアキが隣にいたとしたら また「泣くなー」って言って拭いてくれるかな なんて、俺がアキを好きなことがばれてしまえば きっと涙も拭いてくれなくなるよな ごめん、アキ 俺、アキの事好きになっちゃった 男同士なのに、好きになっちゃった 色々探ってみたけれど、この気持ちに“恋”以外の名前が見つからないんだ だけど俺、この気持ちには蓋をする それで今までの平和な日常が戻ってくるなら、この気持ちには一生蓋をして墓まで持っていく だからさ、ちゃんと仲直りするからさ また俺と一緒にこの道を歩いてくれるかな………？