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暴露

ゆっくりと重たい足取りで歩いたせいか、いつもより家に着いた時間はかなり遅かった 何も言わずに玄関のドアを開けると、中から母さんのおかえりと言う声が聞こえてくる 泣き疲れた俺は、何も言わずに2階への階段を上る 冷たいドアノブを握って自分の部屋に入ると、そのまま電気も点けずにベッドに力なく倒れこむ ベッドからは、洗いたての柔軟剤の香りがする あ、シーツ洗っててくれたんだ…… ごめんね母さん、ちゃんとありがとうって言いに行きたいけどこんな顔じゃ言えないかな お気に入りの枕に顔を埋めう〜っと行き場のない気持ちをぶつける このくらいしかやることがない すると突然ノックも無しに部屋の扉が開く それでも俺はベッドに突っ伏したまま、扉に顔を向けることもできない なぜなら今日一日泣きっぱなしの俺の顔はきっと悲惨なことになっているからである 「翔?いんの?」 扉を開けたのは姉ちゃんらしかった そのままぺたり、と部屋に1歩だけ踏み込んだ足音も聞こえる 俺は枕に顔を埋めたままう〜と唸りいることを一応示す 「あんた、何してんの?」 はぁ、と一度ため息を吐くと怪訝そうに姉ちゃんは言う 壁に張り付いたスイッチをパチンと押して電気を点けられてしまう もう、何で電気点けちゃうんだよ わざと顔が見えないように暗くしてんのに 電気を点けると、いつものようにずかずかと部屋に踏み込む男勝りな足音が俺に向かって近付いてくる 「おい翔、こっち向け」 「やだ」 いつも通りの命令口調な姉ちゃんの言葉に、俺は篭った声で短く返事をする 姉ちゃんの命令を聞かないといつもひどい目に遭わされるが、今はそれどころではない 「いいから、起きろ!」 「やだ!」 「姉ちゃんに逆らう気!?」 「うわっ!」 俺はガバっとタオルケットを頭まで被る だが俺の必死の抵抗も虚しく呆気なく姉ちゃんにタオルケットを剥ぎ取られて無理矢理引っ張り起こされてしまう 視界が明るくなって、姉ちゃんのはっきりとしたアイラインにばさばさのまつ毛が目の前に現れる 姉ちゃんは俺の顔を見るなり、化粧の濃い顔をぎょっと引き攣らせる 「あんた、どうしたの?」 「別に、どうもしてない」 「どうもしてないことないでしょ、泣いたの?」 「泣いてない」 「その顔でそんな嘘通じると思ってんの?」 「嘘じゃない」 そう言うと、姉ちゃんは呆れたようにため息を吐いて俺の部屋から出て行った 俺はほっとしてまたぼすん、とベッドに倒れる こんなひどい顔面の弟なんて放っておいてくれ そう思っているもまたすぐに姉ちゃんは戻ってくる 「ほら、目冷やさないと明日腫れるでしょ」 そう言って渡してきたのは薄手のタオルが巻かれた保冷剤 受け取るのを躊躇して黙っていると、腕を引っ張られてまた無理矢理起き上がらされる そして俺の手に保冷剤を握らせる ひんやりと冷たい保冷剤が、高ぶって上がった手の温度を下げていくような気がする 「明日の朝、目が開かない〜って言ってもあたし知らないからね」 「ありがと…」 「ん」 大人しく姉ちゃんにお礼を言って、保冷剤を腫れたまぶたに当てた ひんやりとした冷たさが、熱のこもったまぶたをじわじわと癒していく 「なんかあった?」 「…………………」 「あんたが話したくないなら別にいいけど」 「う…………」 「姉ちゃんでもいいなら、話聞いてあげる」 そう言ってずりっと俺に近付く 姉ちゃんの手が俺の長めの横髪をそっと耳にかける 普段は蹴って叩いての乱暴者なのに、こういう時はいつもこうだ いつも側に来て話を聞いてくれる 今度は俺からずりっと姉ちゃんに近寄って、ぴたりと体をくっつける 俺よりも少し低い位置にある肩にすり、と頭を乗せる 「……………………できた」 「ん?」 「……好きなひと、できた………」 絶対に誰かに話す気なんて無かった だけどこんな風に優しくされたら、どうしても話さずにはいられなかった 多分この複雑な気持ちを誰かに聞いて欲しかったんだと思う 姉ちゃんは少しビックリしたような顔をしたが、すぐにまたいつもの顔に戻して俺の頭をぐしゃっと撫でる 「好きなひと?」 「…………」 白い肩から頭をどかして、俺は黙ったまま小さく頷いた 「なんであんたが泣くの?」 「…………………男だから………」 そして次の問いかけには、少し躊躇しながらも事実で答えた なんでこんなこと姉ちゃんに話してしまったんだろう、と数秒前の自分を恨む こんなの言ったら、いくら姉ちゃんにだって軽蔑されるに決まってるのに 顔を下げて、姉ちゃんの顔が見えないようにする 言ってしまったことは仕方ないけど、それでも姉ちゃんの反応を待っているのが怖かった

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