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ひとりの休日

次の日の朝、俺はなぜか姉の指示で学校を休むことになった 最初は別に具合が悪いわけでもないし行くとごねたが、今日はいいのと強く念を押され結局俺が押し負けた ま、いっか……… 正直学校に行ったところでアキとは気まずいし、今日くらい逃げてもバチは当たらないはず… 着替えかけた制服のワイシャツをハンガーに戻し、部屋着用の中学時代の体操服を着直す 愛着のあるこの服は、使い古した割に肌触りも良く落ち着く かくいう姉ちゃんは俺を置いていつものように大学に向かった 今日はバイトもサークルも休んで早く帰ると言っていたが、何のつもりなのだろう ふむ、と姉の頭の中を想像するも、こういうことに関しては見通せない むしろあの人普段は何を考えているのか分からないし でもまあ昨日は泣き疲れたし、今日はゆっくり特別な休日を楽しもう そう思ってリビングに行き、テレビをつけた テレビの画面には情報番組の最後の占いの時間だった ソファに座りクッションを抱きしめて自分の運勢を確かめる 水瓶座……お、2位だ、ラッキー 恋愛運上昇……?想い人と急接近…だと? 想い人………ないないないない だって俺は………… 「この占いインチキだ」 そう呟いてチャンネルを変える そもそも俺、占いとか信じないし? 別に恋愛運なんか上昇してくれなくていいもん、別に 今度は1年ほど前に流行っていた刑事ドラマの再放送を見つけた 心に闇を抱えたイケメン刑事が、うっかり者のバディと一緒に次々と事件を解決していくストーリーだったような記憶がある 俺も去年、姉ちゃんと一緒に推理しながら見た 画面には主役の俳優がバディと一緒に夕暮れの道を歩く2話のクライマックスシーン ここで主役の刑事とバディの絆が深まるんだ この主役の俳優さん、誰かに似てんなー…… 画面に映る黒い髪にきれ長い目の俳優さん 背が高くてスラッとしていて目鼻立ちのはっきりした感じ………… あ…アキに似てるんだ………… ってなに考えてんだ俺!! アキには謝るって決めたけど、でも不意に頭の中に思い浮かべるのは心なしか恥ずかしいしモヤっとする このドラマを見る気にはなれなくて、結局さっきの占いが放送されていたチャンネルに戻す 占いはもう終わっていて、今度はスポーツニュースの時間のようだ あーこの選手、肩怪我して現役引退するんだ… 結構好きだったのになー…… あ、アキも肩を壊して野球やめたって言ってたっけ… 「って、あー!もう!」 スポーツニュースでは父さんがファンである九州のチームの投手が怪我で現役引退との報道 そんな報道にまたアキの影がちらついて、俺はぶんぶんと頭を左右に振る もうこれ以上色々見る気になれなくなった俺はテレビを消し、リモコンをソファの上に放り投げる 何でこんなに…… 自分がアキとどうなりたいかも分からないのに 恋を叶えて恋人になりたいのかも、恋を心に閉まって今までみたいに友達として接したいのかも分からない そうだ、もういっそのことアキって呼ぶのもやめよう 今日から広崎くんだ、広崎くん これで色々考えてしまうのも収まるし、喧嘩中っぽい感じも出るはずだ 何となく無理矢理スッキリして自己完結してゴロンとソファに寝転んだ 明るい蛍光灯が泣き疲れた瞳にまぶしい しぱしぱと乾燥する目を瞬きで潤す 急に暇になったせいか思いの外やることがなくて困る いつも俺、休日って何してたっけ そう考えているうちにだんだんと睡魔が襲ってくる まだ目が覚めきらないうちに眩しいものを見ると、ますます眠くなってしまうタイプだ どうせ休日なんだ こんな時間に二度寝したって誰も怒らないんだから、そう思い俺はソファの上で目を瞑った ハッ…… ね、寝てた……… ぱちりと目を開け勢いよく体を起こす 一度ごしごしと目を擦り、凝り固まった首を左右に曲げて骨を鳴らす ぼーっとしたままテレビの上の時計を確認すると時間はすでに午後2時過ぎ どうやらソファに寝転がったまま寝こけてしまい、かなりの時間が経過してしまっていたようだ 「あ、起きた?」 「うわぁぁぁああああ!!!」 するとどこかから聞き覚えのある声 びっくりして後ろを振り返るとそこにはエアコンのリモコンを握りボタンを押す姉の姿 風速を強に変えられて、寝起きの俺のボサボサ髪がぶわっと冷たい風に吹かれる 「あんたね、いつから寝てたの?」 「10時……くらい……………」 「怠惰なやつねー、ご飯は食べた?」 「………食べてない」 ったくーと言いながら姉ちゃんが台所に掛けてある俺用の黄色いエプロンを首にかける 起き上がった俺の体には、淡いピンク色をしたブランド物のタオルケットが掛けられている それを丁寧に畳みソファに置いて立ち上がる 俺のエプロンを身に付けた姉ちゃんがいる台所にふらふらと向かう 「カップ麺……」 「なによ?文句あるならやらないよ」 「文句ないです」 小さな声でのぼやきも聞き逃さなかった姉ちゃんに睨まれ、小さく肩をすくめる カップ麺作るだけなのにエプロンをする辺り、普段から料理をしないことが丸わかりだ 姉ちゃんは慣れた手つきで置いてあったカップ麺のラベルを剥がし2つ並べて蓋を半分開ける かやくを入れて待っていると、ケトルのお湯が沸いた合図が鳴った それにお湯を注ぎ、ドヤ顔をしてタイマーをセットしている 何をカップ麺ごときで料理したつもりになっているんだろうか、と思ったものの余計なことを言うとパンチが飛んでくる可能性があるので俺は大人しくタイマーが鳴るのを待った 「あー…また負けた」 「動きが単純なのよ、あんたは」 「姉ちゃんが強すぎるんじゃん……」 カップ麺を食べ終わった後は、姉ちゃんと一緒にテレビゲームをして暇を潰した 某格闘ゲームをしたが、まだ一度も勝てたことがない 今日も連敗記録を更新し続けている しばらくゲームで暇を潰していると、かなり没頭していたみたいで午後5時半を過ぎていた 「もうそろそろかな…………」 姉ちゃんの意味不明を聞き流し、俺は試合に没頭する 今度こそ絶対勝ってやると気合を入れボタンを連打する だが俺の奮闘も虚しく再び連敗記録を更新 画面の左側にはLOSEの文字 俺の愛用プレイヤーが膝をついてうなだれている 「また負けたぁ!もっ、もういっか…」 「一時休戦、これ保存しといて」 悔しくてリベンジを挑もうとすると、姉ちゃんはコントローラーを置いて立ち上がる 俺に一言そう言うと、手ぶらのまま玄関に向かって歩いて行く 俺はしょんぼりしながら指示通りゲームを中断してセーブボタンを押した

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