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お姉ちゃん

昔から、あたしたちは仲のいい姉弟だった 物心がついた時から弟が欲しくて、翔が生まれた時は心の底から喜んで病院のベッドで飛び跳ねた 4つ年下の弟、翔 そいつは母さんでも父さんでもなくあたしにそっくりで、 それがとにかく嬉しくて子供の頃は毎日のように手を繋いで散歩に連れ出した 「しょうを泣かせるひとがいたら、ねえちゃんが守ってあげるからね!」 「………うん」 小さい頃は泣き虫で気が弱くて、ぽやっとしていた弟 泣き虫なところは今でも変わらないけど そんな弟が近所の子にいじめられないように、自分は強くなろうと思った 中学生くらいの頃からだんだんと生意気になり始めたけど、それでもかわいい弟には変わりなかった そんな弟が、泣きながら帰ってきた 理由は“好きな人ができたから”だと言った そしてその相手が“男”であるとも 正直な話驚いた こいつも中学時代は年相応にクラスの女子に片思いしてモジモジして気持ち悪い時期あったし だけどそれなりに男子なんだなぁと思ってかわいく感じていた だけど東京に来て数週間、こいつが惚れた相手は男だったようだ 驚いたけど、偏見なんてない 今時恋愛に性別がどうこうなんて、野暮な話 勇気を出してあたしに話してくれた翔を見下したり、軽蔑するつもりなんて微塵もない 好きになってしまったんだから男も女も関係ない 実はあたしも大学1年の時に女に告白されたことがあった ビックリしたし丁重にお断りさせてもらったけど、 でもその子があたしに言ってくれた“好き”には男も女も関係なかったんだと思う 同性だって壁が有りながらも勇気を持って気持ちを打ち明けてくれた彼女を尊敬したし、素直に気持ちを伝えてくれてすごく嬉しかった だけどどうやら、泣いている理由は男を好きになったからだけではないようだ どうやら翔はその男に電車での通学中、無理矢理キスをされたらしい 最初は事故で唇が触れただけだったけど、その後今度は相手の意思でめちゃくちゃにされたらしかった そしてそれに対して後に頭を下げられ忘れてくれ、と頼まれたと泣きながら語った あたしは直感した その輝って男が翔に惚れていると 翔は昔からなぜか男からの人気が高かった と言っても人気者、という括りよりかは性的な目で見られることが多かった 逆に女子からは全くと言っていいほどモテなかった 高校時代、あたしの同級生の男に翔のことを紹介してくれと縋られ、そいつをブン殴ってボコボコにしたことがある そりゃ昔からあたしに似て可愛かったし? にしてはあたしと違ってチョロそうで騙されやすそうな雰囲気をまとっていた きっとそいつも、あたしの同級生と同じに違いない 下心で翔に近付いているんだと思った 許さない あたしが大事に育てた翔を、そんな嫌な奴にやりたくない 割と放任主義で何でも自由にさせてくれた両親に変わって、翔を素直で思いやりのある優しい子に育てたのはあたしだって思ってる あたしみたいに傲慢にならないように、翔にはたっぷり愛情と厳しさを注いだ だから翔がそいつのことを好きだって言うなら、あたしが見極める 過保護で何が悪いのよ 大事な弟守るのは、姉であるあたしの役目 次の日翔には学校を休ませた 学校にはあたしがお母さんの振りをして電話を掛け、熱だと嘘を言った あたしには作戦があった こういう時、きっと誰かが配布物を届けにやって来る そうでなくても翔に惚れた男なら、見舞いにでも来ると踏んでいた ここで来なけりゃあたしは一生そいつを認めない そんなつもりでいつも翔が帰宅するくらいの時間に、玄関で待ち伏せをした 扉に背をつけしばらく待っていると、翔と同じ制服を着た背の高い男子がうちの前で立ち止まった 手には小さな紙切れを持って、それを確認するように何度か見合わせる 直感した、こいつがあの“輝”だと 輝という名前に相応しい輝くビジュアル 身長は180センチを超え、体もがっちりと大きい くっきりとした目鼻立ちは美形そのものだ 翔が言っていた、そいつは学校1の人気者だって インターホンを押そうとする彼の手を止める カバンの中には茶色い封筒が見える 怪訝そうにあたしを見つめる輝にゆっくりと近寄った 翔のやつ、面食いかな… こんな女に苦労したこともないようなハンサム捕まえて、キスまでされて いや、こんな男に惚れられた翔もなかなかね…… 考えていることを悟られないように表情を凍らせてじっとその綺麗な顔を見つめた それから輝と話をした というよりあたしが一方的に話した、と表現した方が正しいと思う 輝に突き付けた言葉はあたしのエゴでしかないかもしれないけど、罪悪感を抱えるこいつの胸には深く突き刺さったはずだ あたしは“今の”あんたには、翔はあげられない そう言った あたしにはこいつが根っからの悪人のようには見えなかった 悔しそうな表情や真剣な表情に、嘘は感じなかった 「オレ、お姉さんに何言われようと、翔が好きです」 封筒を受け取り輝に客人に背を向ける ドラノブに手を掛けようとすると、後ろからはっきりと、そう聞こえた くるりと振り返り輝を見る 震える拳 たらりと汗が伝う頬 まっすぐ向けられた瞳は、真剣そのものだった その時思った 輝になら、翔を渡してもいい 翔に見合わない不届き者ならばっさり切り捨てて突き放してやろうと思ったけど、そうしなくてよかったと心から思った その真剣な瞳を信じたいと思った 翔のセンスもなかなかなものだ 翔に男を見る目があったなんて、お姉ちゃんびっくりよ あたしはふっと頬を緩ませると、何も言わずにそのまま扉を閉めた 明日はきっと、翔にとって特別な日になることだろう

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