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会いたい

次の日の朝、俺はいつもよりも早く目が覚めた と言うよりほとんど眠れなかったと表現した方が正しいかもしれない 眠い目を擦りながらベッドから立ち上がる 本当はまだ二度寝しても大丈夫な時間だが、そんな気分にはならなかった 今日は行かなきゃ、って アキが待ってるって言ってくれたんだから そう心の中の自分が急かしてくるんだ だけど俺決めた 今日はしっかりアキに謝る この間ひどい言葉をたくさんぶつけたことや、何度も手を振り払ったことも全部謝って無かったことにするんだ これで今まで通り きっとアキともまた仲良くできるはずなんだ それがいちばんなんだ、と心に言い聞かせた 白いワイシャツに袖を通し青いネクタイを結ぶ ワイシャツの袖を2回ほど折り曲げ七分袖にし、ズボンを履く 最後にベルトを通して、いつもよりも1段階きつく締めた 「よしっ…」 小さく息を吐き、気合を入れた リビングに降りるとまだ誰も起きていないみたいだ 母さんも今日はパートは昼からだし、姉ちゃんはいつも起きてくるの遅いし 父さんは今出張中だ 俺はひとり静かに台所に立ち昨日の晩に仕込みをしていた弁当を仕上げる 昨日作っておいた作り置き用のおかずをいくつか弁当箱に詰める それから甘めの卵焼きを焼いて、半分を弁当箱に詰め残りは朝ごはんにする 「あちち………」 炊きたてのご飯をボウルに移し、しゃけフレークと枝豆を混ぜておにぎりを握る 今日はいつもより少し手に力が入ってしまい、少しおにぎりが硬くなってしまったような気がする すると、ボウルに取ったご飯がいつもより多かったことに気付く せっかくだからともうひとつおにぎりを握り、おかずを詰めた弁当箱と合わせて保冷バッグに入れた それから俺はいつもより30分も早く家を出た 先に行くねとまだ起きてもいない母と姉への書き置きだけ残した いつもよりも足取りが重いような気がして、俺は意識してバス停までの道のりを早足で歩いた バス停に着いたところでちょうどバスが来て、それに乗り込む いつもより少し早く出るだけでこんなにもバスが空いていることに少し驚きつつ、東京に来てはじめてバスで席に座れたことに感動する 後ろの方の窓際に座り、ほっと一息つく 心なしか穏やかな気持ちが変に高ぶらないように、ずっと目を閉じて精神統一をする 目を閉じると、心臓の音がばくばくと鮮明に聞こえる 駅に近付くにつれて少しずつ速まっていく心拍数に怯えながらも、深呼吸をして心を落ち着かせた 「大丈夫…大丈夫………」 ぶつぶつと小さな声で呟く 人という字を3回手に書いて飲み込む それから1回じゃ足りなかった俺はあと3セットほど人という字を書いては飲み込んでいるうちに駅前のバス停に辿り着いた 駅の階段を登る ちらほらと人が見えるものの、そう大きくない最寄り駅の早朝は普段のようなラッシュを感じない とことこと階段を登る足が、少しずつ速まっていく 会いたい アキに会いたい アキに会って、出来ることならまた仲良くしたい そんな気持ちが俺の足をどんどんと前へ進めた 改札を抜けアキと普段待ち合わせをしているホームにたどり着く 早く家を出たことで普段の待ち合わせ時間よりもかなり早く着いてしまったようだ まだだいぶ時間が早いせいか人はあまり多くない さすがにまだ来てないよな……でも何だかこういう日の待ち合わせって後から来る方が気まずい気がするから早くてもいいか そう思いいつもの2番乗り場に向かった 「あ…」 「翔、おはよ」 「う、うん、おはよ…」 たどり着いた2番乗り場にはアキの姿 俺が先だと高を括っていたが、どうやら違ったようだ アキはいつものようにぴんと背筋を伸ばして立ち、いつもより少し控えめに挨拶をした 少し戸惑いながらも俺も挨拶を返す 目が合ってしまわないように、ほんの少しだけアキから視線を外す きょろきょろと至る所に向けられた視線は良い行き場が見つからない 「まだ時間あるしさ、少し話せるか?」 「う、うん………」 初手で何と声を掛けて良いか迷っていた矢先、アキからそう提案をされた アキの表情を伺うと太くて凛々しい眉は少し寂しそうに見える ち、ちゃんと謝らなきゃ……… ずっとこうやってどこかに目を逸らしておどおどしてるなんてお互い嫌だもんな 俺が頷くと、アキはホームの4つ並んだ椅子の端に座る それに釣られるように俺はアキと2つ間を開けて端の椅子に座った ひんやりと冷たい椅子は、俺の気持ちをぎゅっと引き締めた

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