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告白
椅子に座ってしばらく沈黙が続く
お互いにどう声を掛けたら良いのか分からず、第一声を迷ったまま時は止まっているようだ
き、気まずい………
でも、ここは勇気を出して謝らないと
一昨日あれだけ酷いことを言ったんだから俺からちゃんとごめんって言わなきゃだよな
「アっ、アキ!」
「翔っ」
俺が勇気を出してアキの名前を呼んだと同時に、アキも俺の名前を呼ぶ
被ってしまったのが何だか恥ずかしくてふたり同時に下を向く
か、被っちゃった………
なんかこういうのに照れ照れするのも馬鹿みたいだけど仕方ない
隠し通すとは言え俺がアキに好意を抱いていることに変わりはないのだから
「ご、ごめん、先言って…?」
「いっ、いや、オレこそ遮ってごめん、翔先言って」
揃って譲り合い、結果俺が先に言うことに
アキのこういう普段は明るいのに控えめな優しさを感じるとまた気持ちが増していく
些細なことでさえ、俺の気持ちを大きくしていく
だめだ
これ以上気持ちを増やしちゃだめだ
これ以上好きになっちゃったら俺、これからどうしたら良いか分からなくなっちゃうんだから
そう自分に言い聞かせ、すうっと息を吸った
「あの、この間はごめん…アキにあんなに酷いこと言って突き離したりして……本当にごめん!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ翔……」
思い浮かんだ言葉をとにかく口に出す
うまく纏まっているかなんて考える余裕はなくて、ただひたすら思いついた謝罪を述べる
するとアキが俺の言葉を焦ったように遮る
そして慌てて立ち上がると俺とアキとの間にある2つの隙間をぎゅっと詰める
一気に物理的な距離が縮まって、思わず心臓が飛び出そうになってしまう
やばいっっ、ドキっとした………
ばくばくと心拍数が上がる
そんなうるさい心臓の音をアキに感じ取られないよう、必死に平然を装おうとする
だけどアキは俺のそんな苦労も知らずにもやしみたいに細い手をぎゅっと握った
俺の手よりも一回り大きくてゴツゴツしたその手は、まるで熱を出した時みたいに熱くて火傷してしまいそうだ
驚いてアキの顔を見上げると、真剣な瞳がこちらを向いている
「なんで翔が謝るんだよ、悪いのはオレなのに」
「でも、でも、アキ……」
「翔、聞いて、オレが悪いんだ、自分勝手なことして翔のこと傷付けちまったから…」
「ま、まってよ…俺っ……」
今度はアキの言葉を俺が遮ろうとする
それでもアキは話を続け、俺の手を握るその手には力がこもる
まっすぐ向けられた真剣な瞳
いつもならこんなに見つめられたら目を逸らさずにはいられないのに、なぜか今だけはその瞳から目を逸らすことができない
俺の当初の計画にはこんなの無かった
俺の計画では俺から謝ってお互いにごめんなって言えたら仲直りで、それで終わりのはずだった
こんな想定外なこと、俺の単純な脳みそじゃ捌けない
「忘れろなんて言ってごめん、オレ本当は無かったことになんてしたくないよ……オレだって忘れらんない」
アキのキラキラとした瞳がまっすぐ俺を見つめてそう言葉を紡ぐ
握られた手が熱くて熱くて、だけど振りほどけなくて
その綺麗な瞳から目を逸らせない
どうしたら良いのか、今何が起こっているのかも何もかも俺には分からない
だめだ、この先を言っちゃ、この先を聞いちゃ
「からかうためにキスしたんじゃない」
言うな
言わないで
これ以上俺の心を振り回さないで
「オレは翔が好きだからしたんだ」
俺の耳にすっと入り込んだ低い声
優しくて爽やかで、俺を助けてくれたその声は今何を言っている
「翔が好きだよ」
や、やめろ、そんなこと言うな
俺は、俺はっ…この気持ちをずっと隠しておくって決めたのに………!!
なのになんで、そんなこと言うんだよ……っ
色んな感情が溢れてくる
今の言葉が夢なのか現実なのかもまだ曖昧なままなのに、俺の頭と心の中はぐちゃぐちゃに散らかって感情一つも上手に片付けられない
嘘だ
そんなの嘘だ
アキが俺を好きだなんて
あのキスが無意味なものじゃなかったなんて
そんなの嘘に決まってる
「やっ、やめろ………っ、バカっ、」
「翔、好きだ」
「…うるさいっ、やめろっ……」
震える手でアキの胸をバシバシと叩く
けれどその手を捕まえられてぐっと強く握られる
それを引き剥がすようにするけど手が震えて力が入らない
「さわ、んな……っ、バカっ、アキのばかぁっ…」
まただ、俺また涙が止まらない
アキの顔も涙で歪んでまともに見ることさえできない
俺の手を握る手が燃えるように熱い
俺の震える手をぐっと握るその大きな手が熱くて仕方ない
だめだ
言うな
頼むから、一生のお願いだ、俺
隠しておくって決めただろ
だから……
「好きだっ、ばかぁっ!!」
俺の口から乱暴に飛び出した言葉
胸の内に秘めたまま表に出すことなんてないはずだったその言葉
だけど揺さぶられた感情が、心が、
自分の制約をぶち破った
心の中でぐるぐる巻きにした鎖を引きちぎったんだ
言わないはずだったのに
言わないって決めたはずなのに
俺って本当、チョロいかも………………………
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