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おにぎり

「あー!翔がおやつ取った!ヒロくん何とか言って!」 「あはは、翔〜返してやれよ〜」 「うるさいぞお前ら!健このままじゃメタボだぞ!」 「おれ太らないもん〜」 教室の端の俺の席に集まって弁当を囲む いつものように健の巨大チョコレートを奪い取る いつもと違うのは、アキがいること アキがいることによりアキが健の味方をするから実質2対1で分が悪い だがそんなのもろともせず健の手からカロリーの大渋滞であろう巨大なチョコレートを奪うとカバンの中にしまい込む ご飯の代わりにおやつを食べるなんてもってのほかだ! 「これは夕方おやつの時間に食べなさい!」 「ぶー」 「少しずつだからな!全部食べるんじゃないぞ!」 「はは、翔結構厳しいのな」 いじけながら俺があげたおにぎりをちまちまと食べ始める健 横で人ごとのように笑っているアキ だがそんなアキにも、文句がある 「アキ、お前のそれはなんだ」 「へっ?」 俺の問いかけにピクッと肩を跳ねさせるアキ じろりとアキを睨むとしらけた顔でよそ見をしてミネラルウォーターを少量口に含む そう、アキの机の上にはコンビニで買ったサラダ それからプロテインバー そして水 「なんだそのボディビルダーみたいな食事は!」 「ひぃ」 ドンっと机に手をついて立ち上がる アキはミネラルウォーターのペットボトルをぎゅっと抱きしめて顔を青くする かくいう俺は顔を真っ赤にして、現代の高校生の食事事情に震える 健もアキも、どいつもこいつも何なのだ もしかしてこの中で育ちがいちばん良いのは俺だったのだろうか そりゃ俺は元料理研究家の母さんの影響で食にはうるさく育ったが、まさかここまで健康に無頓着なお馬鹿さんどもがたくさんいるなんて 「アキ、自炊とかしないの?」 「オ、オレはしないかな〜?」 「毎日コンビニ?いつもこんな感じ?」 「ま、まぁ………」 俺の問いかけにビクビクしながら答えるアキ まぁ男の一人暮らしで、自炊をしない人も少なくはないのだろうしそこまで責めることではないか… だけど俺の育まれた健康志向はそれを許さないんだが そんな時、俺は今朝の出来事を思い出した 朝早く起きて弁当を作っている時、ボウルに米を取りすぎて今日はおにぎりをいつもより1つ多く作っていた そしてそれをちゃんとカバンに入れて持ってきていたことに これ、あげたら喜ぶかな……… 何だか好きな男子に弁当を作ってくる嫁系彼女みたいなやつに見えないだろうか いくら恋人になれたからって、少し浮かれすぎだろうか 目の前で肩をすぼめてもしゃもしゃとキャベツを貪るアキ なんだかその姿を見て、俺が作ったおにぎりを与えるとどんな反応をするのか見てみたくなる ここは勇気を出して………… 「これ………あげる……」 カバンから今朝作ったシャケと枝豆のおにぎりを2つ取り出すと、少し大きい方をアキに向かって差し出した やっぱり少し恥ずかしくてアキの方をまっすぐ見ることが出来ない 様子を伺うようにチラリとアキを覗き見すると、目の前のイケメンは瞳をキラキラと輝かせて固まっていた 「こ、これオレにくれるの……?」 「ん…………」 「すっげえ嬉しい!なにこのおにぎり可愛い!」 アキは嬉しそうに笑っておにぎりを両手で受け取る 予想外の反応に、何だかまた頬が熱くなる オレンジ色と黄緑色の具材でカラフルに彩ったおにぎりは、アキが持つと少し小さく見える 隣で同じものを食べる健がぶらぶらを足を揺らしながらにこにこ笑ってアキを見つめて言う 「これね、翔が作ったんだよ!」 「えっ、そうなのか!?」 「このお弁当もぜーんぶ!翔が作ったの!」 健の告白を聞いたアキが勢いよく顔をこちらに向ける それと同じタイミングで俺は顔をそっぽ向けて、そのキラキラ輝く視線と目を合わせないようにする アキがおにぎりに巻かれたラップを丁寧に剥がし、じっとそれを見つめている そんなにまじまじと見つめられると緊張する……… 「いただきます」 低く穏やかな声でそう言って、てっぺんからおにぎりを口に入れた 意外と一口が大きくてそんなところも男っぽいな、なんて思う しばらくアキが咀嚼する様子を見つめる すると突然アキが下を向き、おにぎりを持つ大きな手を震わせ始めた 「えっ!?アキどうした!?苦手なものでも入ってた?」 「ごめんっ……ちがくて…ッ」 「…アキ………?」 アキの様子がおかしい ごめんと言ったその声は心なしか震えているように聞こえる 下を向いたアキの顔を覗き込むようにすると、アキは隠れるように顔を片手で覆う 「ごめんっ……うれしくて、オレ…ッ……誰かが作った飯食うの久しぶりで………っ、ごめん……ッ」 今度は明らかな涙声で、そう言った それからアキはゆっくりと話してくれた 一人暮らしが始まってからずっと、出来合いのものばかり食べていたこと 女子が弁当を作ってきても彼女が作ってきても何ひとつとして受け取らなかったこと そして、今日久しぶりに手作りのものを食べたこと 「あはは!ごめんなっ、何か変な感じにしちゃったな!」 「アキ……」 「わーっ、恥ずかしーっ」 一通り話が終わると顔を乱暴に拭い、おどけたように笑ってみせた 健も隣で静かに話を聞いていた アキのこんな生活を可哀想だとは思わない 今までの時間だって、アキが歩んだちゃんとした人生だ だけど今は俺がいる だから 「明日から、弁当作ってやってもいいけど………」 「えっ………?」 「嫌じゃなければ、だけど…………」 こういう時まで素直に目を見て言えないのは俺のダメなところだ だけど俺なりに、頑張って素直になる努力をしたつもり それから、アキはまた泣き出しそうな顔をして頷いてくれた 大変じゃないかなんて聞いてきたが、弁当1人分増えるくらい大したことはない そう言うと嬉しそうに笑ってありがとな、と言った こうやって笑いながら誰かと昼休みを過ごすことがアキにとっての自由なら これからもずっとアキが笑っていられるよう 俺が一緒にいよう、と心に誓った なんて、素直に口に出して言えるわけはないけど

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