52 / 234

イケメン王子は大型犬

沈む夕日の中、俺は今朝来た道をアキと並んで歩く この道にはたった2週間なのにたくさんの思い出が詰まっている アキに一緒に帰ろうと誘われて教えてもらった道 アキとこれからも一緒にと約束した道 アキを好きだと自覚し涙を流しながら歩いた道 良くも悪くも俺の中では思い出深い そんな道を今日は、アキと共に歩く やはりアキと並んで歩くと俺の足は短く貧相に見える 「なぁ翔」 「ん?」 「翔は何でオレのこと好きになったの?」 「へっ!?」 他愛もない会話をしていた矢先、突然アキがそう尋ねて顔を覗き込んでくる そしてオレ翔に酷いことしたのに、と後から付け足すように言って首をかしげる な、何でって言われても…………… いざ理由を聞かれると明確なものが見つからない 怖かった痴漢から助けてくれたこと 転校してきて不安ばかりだった俺に優しくしてくれたこと いつも笑顔で頭を撫でてくれたこと 実は明るい部分ばかりじゃない人間らしい部分を知ったこと 色々なことが積み重なって、気付いたら惹かれていた 今考えると俺って単純なのかな……… 優しくしてもらって惚れちゃうなんて、ミーハーみたいで恥ずかしい 「………そんなの、しらないっ…」 頭の中に浮かんできたアキを好きな理由を素直に口に出すのは、恥ずかしがり屋の俺には無理なようだ ぷいっとそっぽを向いて、赤くなった顔を隠す 「ちぇー、なんだよー、気になるだろ」 「う、うるさい………恥ずかしいから言わないっ」 「ふふ、かわいーの」 「かわっ………!?」 アキはコロコロと表情を変える 拗ねたかと思えば今度は無邪気に笑って俺の頭をよしよしと撫でてくる かわいい、なんて言われたのも恥ずかしくてその手を振り払う まず俺男だしかわいくないし ちらりとアキの顔を覗き見る 夕日に照らされたアキの整った顔は、光が瞳に反射してますます輝いて見える 妬ましいくらいに美しい顔に、思わず見とれてしまう 「オレはな、翔のこと好きになったのな……」 するとアキが立ち止まり俺に手招きをした 手招きに釣られてアキに近寄ると、内緒話のように耳元に顔を近付けられる さっきまで恥ずかしがっていたことも忘れてアキの声に耳を傾ける 「……………実はな、一目惚れなんだ」 コソッと小声でそう言うと、アキは無邪気に笑って先に歩き出す 置いて行かれた俺はその場に固まったまま徐々に顔を熱くする ひ、一目惚れ………… 慌ててアキを追いかける 隣に立つのも気恥ずかしくなって半歩後ろを歩いているとアキがペースを落として結局横に並んで歩く 「はじめて見たときから綺麗だなって思っててさ」 「う……」 「それからずっと翔のことばっか考えるようになって」 「も、もういいって………」 恥ずかしがる様子もなく吐き出されるアキの言葉に段々と心臓が持たなくなる こんな口説くみたいなセリフ、捻くれ者の俺には甘酸っぱすぎる 俺が止めさせようとするもアキの口は止まらない 「学校で抱きしめた時も実は少し下心あって」 「………やめろってば…っ」 「後から気付いたけどこれは一目惚れだったんだなー、って思ったんだ」 「わ、わかったから………っ」 結局俺の抵抗なんて効きもしなくて、最後までアキの甘酸っぱい告白を聞く羽目になった 最後の言葉を聞く頃には俺は耳どころか首まで赤くなっていて、今にも煙が吹き出しそうだった それから電車に乗り込み、最寄り駅まで進んだ 帰りの電車は朝みたいに混んでいるわけではないからアキと抱き合うような真似はしない だけどそれでもアキは誰かの手が俺に触れないように、常に俺を壁側にして立つ 「あ、アキ自転車だよな?」 「うん、そうなんだけどさ」 「うん?」 「今日から翔のこと家まで送って帰るから」 いつもならここでアキとはお別れ アキは駅から自転車に乗って帰り、俺は気分でバスや徒歩を使い分けて家に帰る だが今日のアキには違うプランがあるようで 「少しでも一緒にいたいから家まで送らせて、な?」 そう言ってえらく滑らかなウインクをしぐしゃっと頭を撫でられる そしてアキは少し待っててと俺をその場に残すと走って自転車置き場に向かった その場にぽつんと取り残される俺 さっきから甘い言葉やスキンシップを受けて、いよいよ心臓が爆発するかもしれない まさかあんなにスキンシップが激しくて、口説くような甘い言葉を山ほど浴びせてくるやつだとは思ってもいなかった 愛情表現が激しくてスキンシップが多くて、まるでよく懐いた大きな犬みたいだ もっとクールなやつだと思っていたのに…… 「やばい………こんなの心臓持たないって……」 両手で顔を隠しその場にしゃがみ込む 手に触れる頬は火傷しそうなくらいに熱く火照っている 恥ずかしいのに嬉しいような、でもやっぱり恥ずかしいような気持ちで胸がごちゃごちゃしている 本当、妙なギャップに俺の脈は上がるばかりだ 朝からずっとドキドキさせられっぱなしだ それをアキに悟られないよう隠す努力で、今の俺には精一杯だった

ともだちにシェアしよう!